甘いお菓子

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「誰かいませんか?」

お母さんからもらったお小遣いを握りしめて、訪れた近所の古びた本屋さん。恐る恐るカラカラとなる引戸を開けて店内を覗くと誰もいない。僕は、勇気を出して呼びかけてみた。

返事はなく、誰も出てこない。

だけど、ここで諦めるわけにはいかない。目的の本を手に入れないことには家には帰れない。おはぎを買うためのお小遣いを稼ぐために、この1カ月間欠かさず、夕食の片付けと皿洗いをやった。サッカーの練習で僕がどんなに疲れていようと、お母さんは容赦なく汚れたお皿をそのまま置いてあった。

(こんな日くらいやってくれたっていいのに・・・)

不機嫌になりながら、ガシャガシャとわざと大きな音をたてながら洗ったこともあった。なぜそこまでしてがんばったのか。それは、入院している僕のおばあちゃんのためだ。畑仕事の帰り道で転んで骨折している。いつもぼくの味方でいてくれるおばあちゃんに、好物のおはぎを届けるのだ。

今度は、さっきの2倍くらい大きな声で呼んでみる。

「すみませーん!誰かいませんかー?」

すると、奥のほうからおばちゃんがバタバタと暖簾をくぐって出てきた。僕は、おばちゃんの顔が見えると同時に、「おはぎありますか?」と聞いていた。おばちゃんがガラスケースの前をのぞき込むと同時に、僕も同じほうを覗き込む。だけど、「おはぎ」と書いてあるそこにはももうなにも残っていなかった。僕はがっかりして、小銭を握りしめて俯いてしまう。するとおばちゃんは、くるりと踵を返して奥に引っ込んで行った。

しばらくして、おばちゃんはプラスチック容器に入った3つのおはぎを持って戻ってきた。「はい、どうぞ」と言って、それをカウンターの上に置いた。

「2つでいいです」

僕がそう言うと、おばちゃんはおまけだと言って、そのまま渡してくれた。僕は握りしめて温かくなった、2つ分の代金の小銭を置いた。おばちゃんにお礼を言って、店を出た。

小走りで、家まで急ぐ。お店を出る前におばちゃんが教えてくれた。

「お母さんが、今日僕がおはぎ買いに行くからって電話してきてね。だから取っておいたんだよ。」

僕は。袋の中のおはぎを気にしながらもさっきより早く走る。おまけのおはぎはお母さんにあげよう。

10/4/2025, 6:51:58 AM