梨
梨を剥きましょう
家族がいっぱい食べてくれるから
いくらでも剥くわ
一口サイズにしたほうがいっぱい食べてくれるから
六等分に切って、それをさらに半分にするの
でもね、実家の母が時々美味しい梨を
わざわざ遠くまで買いに行って
それを届けてくれる
母にとつて私は
いまも剥くのを面倒くさがっていた末っ子のまま
皮を剥いた梨をタッパーに入れて持ってきてくれる
剥いた梨を食べるのは私
剥いてないのは私の家族の分
お母さん
もう、梨を剥くのなんて
あっという間にできちゃうんだよ私
だけど、内緒にしておくわ
いつまでもあなたの末っ子でいたいから
LaLaLa Goodbye
何なら鼻歌でも歌って
背筋をピンとのばして
私は貴方に背中をむける
喜んで欲しくて
いつも理解があるふりをして
もう長いことそれが「自分」だと思っていたけど
ある日、遠い昔の私が
「がんばったね。もういいよ」
と声をかけた
私は貴方に出会う前の自分に戻るの
久しぶりの「自分」はまだぎこちなさが残るけど
心は信じられないほど満たされ、だけど軽くなった
軽やかに鼻歌歌って
背筋をのばして、下手っぴなスキップなんかして
振り返らないで行くわ
さようなら、貴方
さようなら、がんばったわたし
未知の交差点
未知の交差点の真ん中に佇んているあなたは自由だ
強い風に押されて流されそうになっても
誰かが「こっちにおいで」とあなたの腕を引っ張っても
行き交う人があなたのことを邪魔そうに睨んでも
どうか、足を踏ん張ってそこに留まって
好きなだけ時間をかけて
行くべき方向を決めればいい
忘れないで、あなたはどこにだって行ける
一輪のコスモス
コスモスを一輪あげる
一輪だけでこめんね
だけど、一番可愛いのを探してきたよ
君とおんなじ
そこには美しく咲き誇るコスモスがたくさんあったんだ
だけど、僕はそれじゃあ嫌だったんだ
だから、コスモス畑を掻き分けて奥へ奥へと入ったんだ
そうして見つけたよ
ひっそりと、美しさを放つ一輪を
ねえ、見つけた僕を褒めてくれるかい?
あの時、君を見つめる僕にそっと微笑みかけてくれたみたいに
秋恋
秋を恋しくおもうのは、日差しがまだ柔らかく、木々の葉は赤く燃えていたから。
今、わたしはひとり、今にも雪が舞い散りそうな空の下で、あの人に囚われている。もう、葉はすべて木から落ちてしまい、疲れて眠るように地面に張りついている。
あの秋のわたしは、銀杏の木の下のベンチに座り、「まだ温かい飲み物は早かったね」なんてあの人と言いながら、缶コーヒーを両手で転がしていた。
そんなわたしたちの目の前を、黄色い銀杏の葉がヒラヒラと落ちていった。わたしはそれをつかもうとしたけれど、葉はするりとわたしの手を避けるように落ちていった。
「むずかしいね」と照れ笑いしてあの人を見つめたけれど、彼はただ、落ちた葉を静かに見つめていた。
わたしは呑気に、次に落ちてくる葉があれば、必ずつかんでやろうと意気込んでいた。すべての葉が落ちた時の寂しさになんて気づかないまま。