秋恋
秋を恋しくおもうのは、日差しがまだ柔らかく、木々の葉は赤く燃えていたから。
今、わたしはひとり、今にも雪が舞い散りそうな空の下で、あの人に囚われている。もう、葉はすべて木から落ちてしまい、疲れて眠るように地面に張りついている。
あの秋のわたしは、銀杏の木の下のベンチに座り、「まだ温かい飲み物は早かったね」なんてあの人と言いながら、缶コーヒーを両手で転がしていた。
そんなわたしたちの目の前を、黄色い銀杏の葉がヒラヒラと落ちていった。わたしはそれをつかもうとしたけれど、葉はするりとわたしの手を避けるように落ちていった。
「むずかしいね」と照れ笑いしてあの人を見つめたけれど、彼はただ、落ちた葉を静かに見つめていた。
わたしは呑気に、次に落ちてくる葉があれば、必ずつかんでやろうと意気込んでいた。すべての葉が落ちた時の寂しさになんて気づかないまま。
10/9/2025, 3:14:26 PM