[はじめまして]
すう──はあ───
長く深呼吸をする。始まりの日なんてのは緊張して当然、だよね?どくんどくんと心臓がうるさい。
ふう───
鼻から大きく息を出す。心を落ち着かせるように。
大丈夫。さあ、いくぞ自分。新しい毎日が待ってる。
『はじめまして』
扉を開けて発した第一声はなんだか裏返ってしまった気がする…。でも、それでいいんだ。スタート地点は伸びしろが多い方がいいでしょう?───なんつって。
またね!
「またね!」
そう言ってあの子は笑った。
冗談じゃない。またね?またなんて一生無いわ。
いつだってそう。ニンゲンは自分勝手。
私は馴れ合うつもりはないんだから。
そう思っていたのに。
次の日も。「やっほー!今日はなにする?」
その次の日も。「きたよ!きいてよ、今日さー」
雨の日も。「雨やばぁい。大丈夫だった?」
晴れの日も。「私晴れてる日大好きなんだ〜」
ずーっと話しかけてきた。どうしてよ。どうしてこんな無愛想なやつに…。
聞いてもいないのに名乗るから名前だって覚えてしまった。シイナは毎日のようにきた。毎日のように話しかけてきて、必ず5時のチャイムで帰った。そして、必ず最後にまたね、と私に声をかけていった。
最初は不愉快に感じていたが、最近は…少し、少しだけ、会いに来るシイナを楽しみにしている私がいた。
1人で生きていくんだと決めていたのに、シイナといる時間が心地よくて、シイナが帰った後になんだか胸に穴が空いたような感覚になることが増えた。
どうしてだろう──?
その日も、シイナはきた。
いつもと違うのはかなしそうな顔だったことだ。
「あのね、、」
シイナが言った事はよくわからなかった。
ただ、私は別の場所へ連れていかれるらしい。
なんだっていいが、シイナには笑っていて欲しかった。
だから、あの言葉を今度は私が言ってあげる。
『───またね』
また会えるよ。だから泣かないで。
胸が寂しいと泣くのを私もこらえるから。
ひらり
ひらり、から何が連想されるだろうか。
私は、花びらが落ちてくる様子や扇子なんかを持って舞っている人を思い起こす。
しかし、ひらりというのは空気の動き、もしくは速度を表していると考えることもできる。
なのになぜ、空気が連想されてこないのだろうか。
それは、空気とは目に見えないものであり、空気に合わせて動いてくれる何かがないと可視化できないものであるからだと私は考える。
つまり、空気よりも空気を感じさせる何かが重要視されてしまうということ。
空気とは、それがなければ生きていけないものばかりであるのにも関わらず、存在が意識されていないものだ。
ひらり、という言葉でさえ空気がなければ生まれていないかもしれないのに。
誰が空気を思い起こすだろうか。
ひらりという言葉から哀しさが伝わってくるようだ。
こちらを見て、と。
君と見た虹
「...眩しいな」
隣に立つ君は、そうだね、と空を見ながら言った。
何に対して言ったのかは自分でもよく分からなかった。
ただ、目の前にひろがる虹は綺麗に輝いていた──
あなたは誰
「あんた、誰だっけ?」
一世一代の告白は、不発に終わった。
誰、だって?
おいおい、クラスも委員会も同じだろーがよ。
なんてわざとぶっきらぼうな言い方で頭の中で文句を言うが、実際は涙をこらえるので精一杯。
「じゃあ、俺行くから」
仲良くなれたと思ってたのは、自分だけだったみたい。
私は、あの人のまわりのその他大勢にすぎず、あの人の視界に入ってなかったんだ。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。
─────
「あんなやつ、いたっけ?」
クラスのざわざわする声が聞こえる。
いいや、聞こえない。気にしない。私は私だ。
1人の男子生徒が私に近づいてきた。
「あれぇ、イメチェン?可愛くなってんじゃん。今なら俺のグループきていいよ?」
かかったな。今更ながらなんでこんなやつに私は引っかかったんだろうか...。私の好きだったあの人は、もういない。私は、こんな人知らない。私はできるだけ嫌味ったらしく、言ってやった。
「───あなた、誰?」