思い出がたくさん有るというのは良いことだ。切っ掛けさえあれば、どんな思い出も思い出すことができる。
写真だったり、インテリアだったり、オブジェだったり、様々な物が思い出す切っ掛けとなる。
思い出を肴にして仲間と談笑することができる。
1人でも切っ掛けを肴にして、飲み物を片手に思い出に浸ることもできる。
その思い出を書き散らして、一冊の本にすることもできるだろう。
旅行の思い出があれば、自分なりの旅行史を作ることもできる。
自分の半生を書き遺した自分史だって同じ、作ることもできる。
半生をドラマにしたものだってできるだろう。
誰かの半生をドラマのように再現することだってできるもの。
そこまでの思い出を作れると良いのだが。
これからも思い出は作っていけるだろう。それぞれの違いは有るとしても。
私が作る思い出。あなたが作る思い出。彼らが作る思い出。
それらは決して、皆同じになることは無いのだろう。
交わることは有るとしても、そのまま同じ状態というわけでは無い。
どこかに去ることも有るのだろう。それでも、交わった思い出たちはたくさんおの思い出の中の一つとなる。
そして、それは生涯の宝にもなるのだからーー。
ーー人の生涯は星の瞬きに比べれば刹那の出来事に過ぎないのかもしれない。
けれど、思い出はその瞬きの内に煌めきを放ち続けていくーー。
冬になったら寒くなる。それは当然のこと。雪が降るのも同じ。
風が冷たくなっていく。。涼しさから寒さへと変わりゆく。
全ての自然は眠りに着く。春の目覚めの時を待ち焦がれながら。
葉は枯れ葉となり、風に吹かれ散りゆく。どこへ向かうかは分からない。
地面に落ちていくのか。遠くの地へと吹かれゆくのか。それすらも分からない。
雪は降り積もりゆく。現の地か心の地か、どちらでもあり、どちらでも有る。
温もりは冷めてゆく。秋の時にあった温もりは、冬に閉ざされ、眠りと共に冷めていく。
それでも人は営みを続けていく。地面が雪で凍っても。
それでも人は生活していく。地面が雪で凍らなくても。
冬になったら、どんな物語が眠るのか。
冬になったらどんな物語が目覚めるのか。
それは誰にも分からない。その誰かが訪れない限り。
それは誰にも分からない。全ての観測者たちですらーー。
ーー冬は閉ざす。冷たい銀世界を静かに覆うようにして。
冬は閉ざす。眠りゆく自然を見守るようにーー。
彼と彼女ははなればなれになってしまった。
どうしてなのか。住む場所も働く場所も異なっていた。異なり過ぎていたのだ。
少しの距離ならば連絡は取り合えるだろう。しかし、遠距離になるとそうはいかない。
慣れない仕事に体力を持っていかれ、自宅に着いた頃にはもうクタクタ。
疲れ切ってしまい、彼女と連絡する気力は無い。
そして迎えるのは結末は自然消滅。緩やかに進行する別れ。
ただ、思い出として互いのなかに存在するのみ。
再会する時は縁を取り戻せるのかどうか。それは誰にも分からないーー。
ーーこれは誰にでも有り得る未来の結末。運命はどんなシナリオを好むのか。
受け入れるか否か。それは、当事者にも、観測者にも分からない。
彼女は独りだった。独りでも気にすることはなかった。寂しさを感じることは無かったから。
ある日のことだ。ショッピングモールを歩いていると、ぬいぐるみ屋を見つけた。
普段なら、素通りするはずだった。けれど今回だけは違った。何か惹かれるものがあったから。それが何なのか、彼女は分からなかった。
しかし、入らないわけには行かない。彼女は惹かれるがままに、導かれるようにして、店内に入っていく。
そして、出会った。一匹の黒猫のぬいぐるみに。子猫のぬいぐるみに。
それを見た瞬間、買いたいと思った。欲しいと思った。値段も手ごろだ。
彼女は躊躇うこと無く、子猫のぬいぐるみを手に取ると、会計を済ませて店を出た。
そして、帰宅するとベットの上に置いた。そこを定位置とするかのように。
彼女は独りだった。けれど、今は独りじゃない。黒い子猫のぬいぐるみがいる。喋ることも動くこともできないが。
それでも、彼女に癒やしを与える存在となっているーー。
秋風が吹いている 涼しさを帯びた風が紅葉を散らしていく
秋風が吹いている 寒い時へと向かう風が 静かに吹いている
秋風が吹いている 秋晴れの下を 夕焼けの下を 夜空の下を 駈けていく
秋風が吹いている 海も 大地を 山を 越えて ただ吹いている
秋風が吹いている 葉を 草を 木を 花を 揺らしながら ただ吹いている