暗雲が覆う空の下。一筋の光が閃光のように切り裂き、太陽の光が地上を照らした。
その光はどこから現れ、放たれたのか。地上から放たれたのである。
地上には邪悪なる魔物たちが群れを為していた。しかし、彼らからすれば、突然現れた光が天を裂いたかのように見えたのだろう。
その光を放ったのは、黄金の剣を携えた仮面の男。後の世に、勇者と呼ばれる存在だった。
響めく邪悪なる魔物の群れ。その隙を突いたかのように勇者は黄金の剣に先ほどの光を纏わせる。
そして、邪悪なる魔物の群れへと突き進んだ。
響めきの隙を突かれた邪悪なる魔物の群れは、光を帯びる黄金の剣にやすやすと切り裂かれゆく。
それはさながら、舞いを観ているかのように。
されど、その光の斬舞は邪悪なる魔物の群れを滅ぼしゆく脅威。
数が減らされてゆくことに気づいたとしても、もはや手遅れ。
勇者の舞う剣は光を浴びたものにとって、滅びへと導くもの。呑まれるは邪悪なる魔物の群れのみ。
流動不動の舞は美しく描かれ、流れゆく川のように静か。
されど、呑むものの生命を邪悪さを散らしていく。暴流に逆らうことは無謀であるのと同じように。
そして、邪悪なる魔物の群々を滅ぼし終えた勇者はいずこかへと消えていった。
どこに去っていったのかは誰も知らないのであるーー。
彼の表情はどこか哀愁を誘うようなものだった。
ふとした瞬間に寂しそうな顔をしている。俯き気味でどこか遠くを見ている。
彼は孤独だった。最愛の女性を永遠に喪ってから、哀愁を友にしているような人になってしまった。
今までの彼のことを知っている人からすれば、その変わりように言葉を失ってしまうぐらいには変わってしまっていた。
自暴自棄になっていないだけマシとは言えるだろう。しかし、病魔は付け込む相手を選ばない。
彼の孤独感は日に日に増していった。寂しさが一層強まっているかのようだった。
遥か遠くを見過ぎていて、現在(いま)を見ていないかのようでもあった。
哀愁の深まりを感じさせるような感じになり、周囲の人も彼から離れていっているように思えた。
だがしかし、彼を見捨てる者はいなかった。彼の友人の一人が、世話焼きがち友人が医者を、精神科への受診を勧めて、無理矢理にでも受診予約をさせたのだ。
そして、受診する日まで彼のことを見ていた。耐えきれずやらかしてしまうことを防ぐために。
受診日になり診断が成された。その結果分かったのは、彼は鬱病になっており、投薬治療が必要だと言うことだった。
愛する人を喪ってどれぐらいの月日が経ったのだろうか。彼の心の傷は塞ぐことは無いだろう。
それでも時折、哀愁を誘ってしまうことはあるが、それが今の自分なのだと彼は考えていた。
今も投薬治療は続いているが、今の自分を受け入れられてもいる。あの時、受診して良かったと思うのだったーー。
今の自分の表情はどんな表情をしているんだろうか。
無表情か。それとも、喜怒哀楽のどれかだろうか。
鏡を見なければ分からない。手鏡すらこの部屋には無い。
鏡を見れば分かるのだろうか。鏡の中の自分の姿を見れば。
いや、顔を見れば良いのか。表情を知りたいのだから。
というか、どうして私は自分の表情を知りたいのだろうか。鏡を見れば答えは見つかるというのか。魔法の鏡じゃあるまいし。
もし、鏡を見つけたとして、そこに私が探し求めている答えが見つかるのだろうか。
分からない。けれど、知りたい。知りたくてたまらないのだ。何が分からないのだろう。
冷静な自分と衝動に駆られる自分。二つの自分がごちゃ混ぜになっているように思える。でも、鏡を見れば答えは明白だ。
私は部屋中を探し回って、ようやく鏡を見つけた。そして、自分の表情を知った。
そこにあったのは何の変哲も無い自分の表情であり、無表情の自分が映っていたのだったーー。
最近の私の悩みは目まいがすることだ。
たまにならば、そこに何らかの原因がある。しかし、それだけならば気にはならないし、悩みにはならない。
頻繁に目まいがするのだ。普通に歩いている。それだけなのに突然、目まいがする。
ふらつくし、くらくらと感じることがある。仕事中だとままならない。
一体、私の身体で何が起きているんだろうか。病院に行っても原因不明とか、気にしすぎで終わってしまう。問題に対して何の解決にもなっていない。
それゆえに、私の悩みは大きく膨れ上がってしまっている。
どうしたらいいんだろうか。この悩みを紙に書き出してみることにした。
すると、どうだろうか。私が目まいをするのが決まって、仕事上でのストレスだという事が判明した。また、目まいの原因について私なりに調べてみると、ストレスが原因で頻発することがあるそうだ。私の病状に当てはまっている。
心療内科。つまり、精神的なものかもしれない。精神科の受診は緊張する。でも、この問題がいつまでも抱えることに比べれば受診したほうが良いのだろう。
私は勇気を出して、精神科に受診することにした。しばらくかかったが問題解決の糸口は見つかっている。藁にもすがる思いだ。
結果として、私は自律神経による乱れから来るものであり、ストレスの原因は仕事上のものだった。先生から休職の届けをもらうことが出来た。
後は、これを職場に渡すだけ。そうすれば、この目まいの日々から救われる。
本当に受診して良かったーー。
私は彼女のことを永遠に忘れることは無いだろう。
彼女という存在は私の中で限りなく大きな存在になっているがゆえに。
世界中の誰もが彼女のことを忘れてしまったとしても、私だけは永遠に彼女のことを想い続ける。それが遺された私にできることなのだから。
新たな恋なんてできないだろう。彼女のことを愛してるがゆえに。
新たな恋のチャンスなんて、もう訪れはしない。彼女への愛を手放さない限り。
忘れられることなく想い続けた先に、私は朽ち果てていくのだろう。
私はそれでも構わないのだ。そうする覚悟はずっと遠い昔から決めている。
だからこそ、私は彼女のことを想い続けていくのだ。
誰かに強いられたわけでもなく。これは私自身が決めたことであるゆえにーー。
ーーそうして。彼が彼女へ抱いていた恋慕はいつしか、愛の詩へと昇華されていった。
悠久の時を経た今でも、彼女に対する彼の想いは様々な詩人たちが詩にして語り継がれているーー。