秋晴れの空の下でしたいことは、コスモスの花を探すことだろう。
純潔や愛情を意味する赤いコスモスを中心にした花束を造りたいから。
黄色とチョコレート色のを数輪ほど差し込んで。
その意味が分かるかな。分からなくてもいい。
2色のコスモスの花の色が表す花言葉。それは幼い恋心と恋の終わり。
恋の病を終えれば愛になる。だから、恋の終わりを意味するチョコレート色。
幼い恋心を終えたら、大人の愛の時間になるのかもしれない。
もう一つ。チョコレート色のコスモスの花言葉は移り変わらぬ気持ちだそうだ。
赤とチョコレート色の2輪の花を貴方に差し出すのは、私が貴方に抱く愛は移り変わることが無いと言うこと。
その2色のコスモスの花を貴方に捧げよう。私の愛の気持ちを込めてーー。
忘れたい。なのに、脳裏にこびり付いて、剥がれない。
かつての場所で言われてきた陰口。言われのないもの。
ふとした瞬間に思い出す。思い出される。トリガーは忌まわしくも不明と来ている。
しかも、言ってきた本人たちはそのことを忘れている。嫉妬に狂いそうになる。
忘れられるなら忘れたいのに。それができないのに。できる者はできに者のことを知ろうとしない。欠落した盲人の配慮は慰めにもならない。
嗚呼、だがしかし、私は知っている。彼らの末路を。
彼らの望んでいた未来は、私がいること前提で構築されていた。
だが、私は彼らの元から去っていった。前提が崩壊したのだ。私の不在が彼らの望んでいた未来を狂わせた。
私は聞いた。私の不在がもたらした影響と連なる者たちを。
私は見た。連なる者たちの集まりに参加することで。
私の不在影響はデータとして遺されている。調べた者は認めざるを得ない状況に置かれた。
彼らの望みは叶うのか。それは、私は知らないし、どうでもいい。
ただ、今の私に分かるのは、彼らは転職することはできない。冷めゆくぬるま湯に浸り続けるしかできなくなったと言うことだけ。
忘れたいのに忘れられない。そうさせた者たちを遠くから嘲笑うだけだーー。
彼女の朝は窓から入るやわらかな光が射し込み始めてから始まる。
時計を見て、身支度をし出勤する。休みの日はいつもより長く寝ている。
そんな日常がこれからも続く。そのはずだった。
病魔の蔦が彼女を蝕んでいた。気づかずに。しかし、確かに。
異変が生じ、病院で診察された。その結果、精神の病であるうつ病であることが分かった。
いつもの日常の急変。それでも日差しはやわらかな光を放っている。
今の彼女の日常は薬を飲むことから始まる。やわらかな光が射し込むなかで。
彼女の日常が変わったとしても、日常の日差しは変わらない。ただ、やわらかな光のまま。
人は変わりゆくもの。自然は変わらないもの。ただ、それだけなのだからーー。
それは見ていた。遙か遠くから眼下を見下ろすように。
それを見る者は恐れを抱くだろう。自分が次の獲物にされる恐怖を感じて。
それはチャンスを逃さない。チャンスが訪れるまで鋭く見張りゆく。
それは突然に急降下する。そして、水面へと潜りゆく。
それは勢いのまま、水上へと駆け戻る。嘴に獲物を咥えて。
それは何事も無かったかのように悠然と翼を広げる。王者のように。
それは鋭い眼差しで獲物を狩る。蒼空の狩人。
それはすなわち、ワシ。彼らに目を付けられて、逃れられる者はいるだろうか。
否、誰もいないだろう。恐怖で身体が硬直してしまうのだからーー。
高く高く飛んでいけ。どこまでも飛んでいけ。この蒼空を、夕空を、夜空を、飛んでいけ。
高く高く飛んでいけ。果てしなく飛んでいけ。世界の果てまでも。
鳥たちよ。飛んでいけ。虫たちよ。羽ばたいていけ。遠い遠い大地へと。
高く高く。舞っていけ。花吹雪よ、舞い散らせ。大地を花で染めていけ。
高く高く。飛んでいけ。天空へと貫いて。雲を突き破れ。
花びらよ。舞っていけ。大風よ、吹き散らせ。矢を放ち貫き破れ。
高く高く。奏でて。海原を渡ってけ。
高く高く。吹き散らせ。風に乗せるために。
旋律よ。響かせて。心に刻め。