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9/6/2023, 1:44:46 PM

ゴーン、ゴーン…と、大きな振り子時計の音が静かな喫茶店に響いた。合計、5回。午後5時を報せるものだった。書き物をしていた私はふと顔を上げ、窓の外を眺める。ついこの間までは午後5時であろうとまだまだ明るかった筈なのに。今ではもう日が傾き始めていた。
「日が落ちるのが早くなって来たね。」
洗い物を済ませたマスターが、口にした。『そうですね。』なんて返事をしながら、今年も夏が終わっちゃうのか…と、少し寂しく思う気持ちを、残っていた冷めたコーヒーと共に飲み込んだ。
季節の終わりは、寂しいだけじゃない。言い換えればまた新しい季節の始まりだ。
「…今年の秋は、どんな時間が過ごせるのかな。」

言い換えただけで、心にわくわくが広がっていく。
その気持ちを忘れないうちに、私はノートに書き留めた。


『時を告げる』

9/5/2023, 2:18:54 PM

人の居なくなった砂浜を歩く。サンダルを脱いで、サラサラの砂を踏みしめながら。
横を見れば夕陽が海に沈もうとしていた。昼間は蒼く輝いていた海が、今は橙色に染まっていてとても綺麗だ。
「…ん?」
コツン、と爪先に何かが当たった。しゃがんで見てみれば、何処からか流れ着いた巻貝だった。
「そういえば、これを耳に当てると波の音が聴こえるんだっけ。」
どっかの誰かから聞いた話。子供の頃はその話を信じて、あらゆる貝殻を拾っては耳に当てていたっけ。懐かしさに目を細めながら大人になった私も、その貝殻を耳に当ててみた。
「…今年も夏が終わるなぁ。」
貝殻を通して聴こえる小波の音がどこか寂しげで。耳元から離した貝殻を海へと投げると、ぽちゃんと音を鳴らし消えていった。

「またね、」

貝殻と夏に、別れを告げて。
私は海を後にした。


『貝殻』