手放す事。
それをする事で、
人は軽くなり生きやすくなる。
だがそれは簡単な事ではない。
手放したと思っていても、
人はいつも通りや大多数の方へと靡いてしまう。
だってその方が安心だから。
そうして元に戻ってしまうと、
また息苦しい日常になって、絶望する。
手放す事。
初めのうちは不安や喪失感を覚えるだろうが、
その先には確実に
生きやすくなった新しい日常があるのだ。
大丈夫。あなたは手放せる。
その喪失感は、あなたを惑わす偽物だ。
『喪失感』
魂の色。
それは決して同じものは無い。
人間の身体というものは魂の器でしかなく、
本体は魂だ。
その魂は完全な姿で生まれ、
やがて不完全な物へと変わっていく。
成長していく段階で不要なあれこれが付いてきて、
魂の色を濁らせていくからだ。
あなたの魂の色は何色ですか?
日々生きていく中で、
不要なものを手離し、
あなただけの色を取り戻して下さい。
その魂の色は世界に一つだけ、
あなただけのものなのだから。
『世界に一つだけ』
ああ…生きている。
トクン、トクン…と、胸に耳を当てれば奏でられる命の音。
ずっと聴いていたくなる、愛しい人の音。
「そんなにこの音が好き?」
「もちろん。だって、世界でたった一つだけの音だもの。」
あなただけにしか奏でる事の出来ない、命の音。
今日もその音色に耳を傾けて眠りに就く。
「おやすみなさい…また明日。」
『胸の鼓動』
街行く人々の服が原色系の明るい色からくすみ系の落ち着いた色へと変化し、
木を彩る葉の色が赤や黄色に変化していく。
秋だ。
「もー、何やってんの?今日は私の大好きな秋刀魚と炊き込みご飯にするんだから!早く帰ろ!」
くるりとロングスカートを翻し、軽い足取りで私の先を行く彼女はまるで踊っているかのようで。
「…あ、紅葉。」
私の持っていた買い物袋の中に舞い降りた一枚の紅葉も、落ちて来る様はまるでくるくると踊っているようだった。
「はーやーくー!」
「はいはい。」
紅く色付いた紅葉と、彼女の紅いロングスカート。
私の視界でひらひらくるくると、踊るように舞っていた。
『踊るように』
ゴーン、ゴーン…と、大きな振り子時計の音が静かな喫茶店に響いた。合計、5回。午後5時を報せるものだった。書き物をしていた私はふと顔を上げ、窓の外を眺める。ついこの間までは午後5時であろうとまだまだ明るかった筈なのに。今ではもう日が傾き始めていた。
「日が落ちるのが早くなって来たね。」
洗い物を済ませたマスターが、口にした。『そうですね。』なんて返事をしながら、今年も夏が終わっちゃうのか…と、少し寂しく思う気持ちを、残っていた冷めたコーヒーと共に飲み込んだ。
季節の終わりは、寂しいだけじゃない。言い換えればまた新しい季節の始まりだ。
「…今年の秋は、どんな時間が過ごせるのかな。」
言い換えただけで、心にわくわくが広がっていく。
その気持ちを忘れないうちに、私はノートに書き留めた。
『時を告げる』