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人の居なくなった砂浜を歩く。サンダルを脱いで、サラサラの砂を踏みしめながら。
横を見れば夕陽が海に沈もうとしていた。昼間は蒼く輝いていた海が、今は橙色に染まっていてとても綺麗だ。
「…ん?」
コツン、と爪先に何かが当たった。しゃがんで見てみれば、何処からか流れ着いた巻貝だった。
「そういえば、これを耳に当てると波の音が聴こえるんだっけ。」
どっかの誰かから聞いた話。子供の頃はその話を信じて、あらゆる貝殻を拾っては耳に当てていたっけ。懐かしさに目を細めながら大人になった私も、その貝殻を耳に当ててみた。
「…今年も夏が終わるなぁ。」
貝殻を通して聴こえる小波の音がどこか寂しげで。耳元から離した貝殻を海へと投げると、ぽちゃんと音を鳴らし消えていった。

「またね、」

貝殻と夏に、別れを告げて。
私は海を後にした。


『貝殻』

9/5/2023, 2:18:54 PM