私の一族は皆涙を流せない。
祖母のお葬式でもそうだった。葬式に集まった親戚は全員涙の一滴も流さなかった。もちろん祖母の娘である私の母も泣かなかった。
私も泣かない。泣くのを我慢していると言うより涙が出ないのだ。
今は亡き祖母に聞いた話だと、御先祖様は普通に涙を流すことが出来たらしい。だが徐々に今に近づくにつれて産まれてくる子供たちは涙を流すことがほとんど出来なくなったらしい。
私の母が泣いたのは生まれた時と父と結婚した時だけらしい。私が泣いたのは生まれた時だけ。それ以降は泣いたことがない。
こんなことを理解してくれる人はあまり多くはなかった。その中で唯一理解し、支えてくれる彼に出会った。
私は彼と結婚した。プロポーズされた時は今までで一番嬉しかったが、涙はやはり出なかった。結婚式でも涙を流すことは無かった。
そして私はお腹に子供を授かった。彼とそれはそれは喜んだ。それでも涙は出ない。やはり私は生まれた時が最初で最後の涙だったのだろう。
私のお腹にいるこの子はもしかしたら私より泣かない子に育つのではないかという不安もあったが、彼に支えられ何とか出産のときを迎えた。
激しい痛みの中産まれたその子は女の子だった。
出産の痛みに朦朧とした意識の中耳を澄ます。だがやはり泣き声が聞こえてこない。焦る助産師たちの声がただ聞こえてくるだけだった。
ああ、そうか。赤ちゃんは産まれてから産声をあげないと死んでしまう。
泣かせてあげられなくてごめんね。
でもね、君が亡くなっても私は──
#泣かないよ
オレたちのような大勢の人前に立ち、歌ったり踊ったりする側の人間をファンは推しと呼ぶ。
ファンは皆口を揃えて「まぶしい」「かっこいい」などと言っている。
だがオレ自身はそうは思わない。眩しいのはオレじゃない。ファンの皆が手に持っているペンライトや、嬉しそうに輝く瞳が眩しいんだ。
オレたちはその光を、その期待を背に掲げているだけなんだ。
だからオレたちが眩しいのではない。オレたちの背にあるものが眩しく見えるだけ、逆光だと顔を直視出来ないだろ?それと同じだ。
推しがそう言い終えると会場は拍手に包まれた。
あぁ、推しは今日も眩しい。
私は目を細めた。
#逆光
約3年前私の大好きな舞台が感染症の影響、キャストの死、キャストの炎上などの理由が重なりその舞台の時が止まっていた。
だが私を含むその舞台のファンたちは舞台の締めの曲にある歌詞の「ああ、いつかきっともう一度会えるんだ」という言葉を胸に再会を待ち望んでいた。
そして今年に入り、その舞台の公式SNSから一件の通知がきた。その内容はただ日時が書かれただけのもので、私を含むファンはその日時になるのをドキドキしながら待っていた。
そしてその時が来た。時間になると同時に舞台公式SNSが更新された。
内容は2nd SEASONの決定とのことだった。私はとても嬉しかった。けれどよく見るとその文章の下に動画があった。観てみると私の知らないキャスト達が映っていた。困惑を抑えられず追加情報を見てみるとなんとキャスト総入れ替えとの事だった。悲しかったし辛かった。
でも前キャストのうちの2人が脚本と振り付けに関わることを知り、私は勇気を振り絞ってチケットを購入した。
2公演観に行けることになり、いざ当日。
ほんとに素晴らしかった。前作をオマージュしていたり、前作の曲を歌ったりとその舞台のファンにはとても嬉しいことが盛りだくさんで言葉で尽くせないほどだった。
キャストも素敵な方ばかりで私は一瞬で虜になった。
キャスト総入れ替えをきっかけにこの舞台とさよならせずにいてよかった。また次があれば観に行きたい、そんな素敵な舞台でした。
#さよならは言わないで
11月22日はいい夫婦の日。
それなのにボクのパパとママは今日も喧嘩をしてる。
いつも声がうるさいのがママで、いつも暴力を振るうのがパパ。
ボクはパパとママの喧嘩にいつもビクビクして押し入れの中にいるの。
今日は朝から喧嘩をしてた2人だけど、ママのうるさい声が聞こえなくなった。
押し入れを少しだけあけて、隙間から覗いてみたら壁が赤くなってる!どうやら壁紙を貼り替えたみたい。
パパは床に座り込んで、ママは床に寝転がってる。
ママが寝ちゃったから喧嘩が終わったのかな?
#夫婦
ラブレターは大好きな人へ渡す大切な手紙。
書く内容も真剣に考えなければならない。
ずっと前から好きでした。
普通すぎ。
いつもあなたのことを見てました。
ストーカーみたい。
1年前に消しゴムを拾ってくれた時に一目惚れしました。
結構前のこと覚えてるなんてキモい。
ワタシにはこれ以上の告白文が思いつかなかった。
完璧じゃなくてもいいと言う。でもどうせなら好きな人に嬉しいと思って貰えるようなラブレターを書きたい。
なんて書けばいいかな?
#どうすればいいの?