「それでも、星を見るのは止められなかった」
星見家の一人娘、絃織のために建てられた観測施設。今日も彼女は望遠鏡越しに夜空の移ろいを眺め続けている。襲われてしまったことの傷は未だ癒えていないが、新たな趣味を見つけ出した彼女を止める理由にはならないのだ。
『夜空を織り取る』
星座
『遅くなってごめんね。助けてくれてありがとう』
女の子らしい可愛い字だった。そう、彼女は一年前、俺が助けた女の子だった。あの時の彼女は襲われたショックで、俺は警察を呼ぶので精一杯だった。
wip
巡り会えたら
『大願成就』
黄昏時、いつもの帰り道。彼はいつも手を差し出してくれるから、私は何も疑うことなくその手を握る。そして、何も変わらぬ一日が過ぎてゆく……はずだった。
雨が降り、風が吹き付ける。あるはずの暑さはどこかに過ぎ去り、上着を羽織るだけでは肌寒かった。異様に眠かったのを覚えている。帰ったら休もう、そう思いながら彼と歩いていた。
「xxxx」
私を呼ぶ声が聞こえて、顔を上げてみる。しかし、辺りには誰もいない。そう、一緒に歩いていた彼すらも。それを理解した瞬間、風邪とは違う寒気に襲われた。
「xxxx」
声が近くなった?
確かめようにも、身体は思うように動いてくれない。しかし、繋いだ手は驚くほど簡単に動いて、解けてしまいそうだ。
「……今更惜しくなったのか?」
彼の声が聞こえた直後、強く握り直される感触がした。
「お前は負けた。あのような不義理を、俺が許すとでも?」
がっ、と肩を掴まれる。
「どのような形であれ、二度と彼女に関わるな」
私を呼ぶ声は断末魔の叫びに変わった。恐怖に目を瞑っていたが、首元の感覚に目を開けた。
「よく耐えたな。何か温かいものでも買って帰るか?」
目線の先にはコンビニがあった。何か口にすれば安心できるかもしれない。その提案に乗ると、彼はいつも通りの、柔和な笑みで歩き出した。
『過去の隙間』
たそがれ
フードを被って走る帰り道。足がもつれて転びそうになったが、彼は身を翻して器用に支えてくれた。
「滑るんで気をつけてくださいよ。それとも、オレと手でも繋ぎますかね」
差し出された左手を握り返せば、彼は驚いたような顔をした。しかし、瞬きの後はいつもの涼やかな顔をしていた。
「すぐ止むとはいえ、勘弁してほしいっすわ」
少しして、濡れた地面が段々と乾いてゆく。
黄昏前の空に虹がかかる。仕事に忙殺されていた頃だったら、空を見ることすらしなかっただろう。虹が消えるまで眺めるだけの余裕が出来るのは良いことかもしれない。
「虹か。久しぶりに見たかもしれないっすねぇ……ま、この辺は空気が綺麗なんで、星空あたりも見れるかもしれませんよ?」
『移りゆく空』
通り雨
さつまいものおやつを作りたくて買い物に出た。お腹は空いているが、簡単で美味しそうな気配の為なら多少は我慢する。
「えっ、高い……」
なんてことだ。さつまいもの値段に白目を剥くことになるとは。げんなりしながら、母に今度でもいいかと伺いを立てる。
「いいよ、それにもう少し待てばじいちゃんの芋が掘れるかもしれないし」
あぁ、そうか。
「そうするよ。食べたかったけど仕方ないね」
流れてきたレシピが食欲を煽る。一日のご褒美として楽しむ予定だったが、それもまた今度。
収穫出来たあかつきにはお供えしてあげよう。
『彼岸の向こう側より』
秋🍁