会社を辞めた後輩。そんな彼女に執着して、負担になっていたことに気付いた。これで最後だと、謝罪するメッセージを送り、気になっても開かないようにしていた。
「気遣って下さりありがとうございます。返事せずに放置してしまい申し訳ないです」
こちらこそ申し訳なかった。返事は書き込まずに、リアクションだけ押しておいた。
俺にできることは、元上司として、一人の男として彼女が再起することを願うばかりだ。
『行き止まり』
些細なことでも
会社を辞めて、もう何ヶ月経つ?
人との関わりを最低限に抑え、息を潜めて生活をしている。人間が怖くて仕方がないから。
だけど、最近はよくお世話になった上司の夢を見る。信頼できる人だった。それでも、最後は一括りにしてしまって。たまに来る通知も無視していたけど。
「何度も送ってすまなかった。どうか心穏やかに過ごしてくれ」
開けないライン
『ただ一言、震える指先で』
何が私を惹き付けるのか。
生きた年数も、経験も、果ては性別すら違う。離れてはまた探し求め、今となっては日常の一部に溶け込んでいる。顔も名も知らぬ彼は人誑しだ。そうでなければ、扱いづらい私と受け入れ、こんな奇妙な関係を何年も築いたりしない。
「───」
彼は慣れたように私を呼ぶ。
今は声だけ。まだ距離はある。
だけど、それすらもなくなった時、私は一体どうなるのだろう?
『その青が届く距離』
香水
淑やかに降り注ぐ雨。空は段々と明るさを落とし始め、仕事が一段落したころには天気は大荒れ、雷鳴が鳴り響いている。
激務故に遅めのコーヒー休憩へと席を立つが、カウンターに向かう人影が見えて慌てて戻る。人の良さそうな彼は、申し訳なさそうに空き部屋の有無を聞いてきた。泊まるための手続きで彼はペンを滑らせる。美しい筆跡に見惚れていたが、思わず声を上げてしまう。
「マーヴェ」
白い耳がピンと立ち上がり、彼もまた顔を上げる。
「クローディア様?!えっと、お久しぶりです」
彼は競技騎士時代のマネージャー。色々あって離れてしまったが、元気そうで何よりだ。部屋に向かう彼を見送って締め作業に入る。コーヒー休憩すら取れなかったが、それも終わり。丁度いいところで、彼の姿があった。
「お疲れ様です、その、良ければ……」
「え、いいの?ありがと」
まさか奢ってもらえるとは。これだけでも嬉しかったが、カップにメッセージが書かれている。
『今夜のご予定にお邪魔しても?』
突然の君の訪問。
淑やかに降り注ぐ雨の音。今日は部屋でのんびりすることにしよう。
wip
雨に佇む