淑やかに降り注ぐ雨。空は段々と明るさを落とし始め、仕事が一段落したころには天気は大荒れ、雷鳴が鳴り響いている。
激務故に遅めのコーヒー休憩へと席を立つが、カウンターに向かう人影が見えて慌てて戻る。人の良さそうな彼は、申し訳なさそうに空き部屋の有無を聞いてきた。泊まるための手続きで彼はペンを滑らせる。美しい筆跡に見惚れていたが、思わず声を上げてしまう。
「マーヴェ」
白い耳がピンと立ち上がり、彼もまた顔を上げる。
「クローディア様?!えっと、お久しぶりです」
彼は競技騎士時代のマネージャー。色々あって離れてしまったが、元気そうで何よりだ。部屋に向かう彼を見送って締め作業に入る。コーヒー休憩すら取れなかったが、それも終わり。丁度いいところで、彼の姿があった。
「お疲れ様です、その、良ければ……」
「え、いいの?ありがと」
まさか奢ってもらえるとは。これだけでも嬉しかったが、カップにメッセージが書かれている。
『今夜のご予定にお邪魔しても?』
突然の君の訪問。
8/29/2024, 9:45:38 AM