夢うつつより意識が浮上する。
何度か瞬きすれば、霞む視界は鮮明になる。目の前にいる誰かに身構えたが、深緑の瞳が懐かしい記憶を呼び起こす。
「久しぶりだな、エノ」
記憶の中、その面影を残しつつ渋さを増した騎士。あの時と変わらない優しい彼。
差し出された手を取れば、軽々と魔女を抱えて夜の森を駆け抜ける。
『再会は夜明け前に』
向かい合わせ
「……君のような人間が、誰かを殺すんだ」
無知とはなんて恐ろしいことだろうか。彼は主を庇うことすら叶わず、その苦しみを誰にも明かしてこなかった。うなされている時の寝言だけが、彼の本音を伺わせてくれる。
真っ青な顔で飛び起きた彼の顔を見ても、そのようなことが言えるのだろうか?
「遺された者たち」
やるせない気持ち
聞こえるのは漣の音。
寄せては返す波が足元に押し寄せる。吹き抜ける潮風が、白銀の髪を揺らした。
「主」
近侍が彼女の後を追って来た。柔らかな砂が足を絡め取るが、足跡だけが残る。
「無理言うてすまん」
「いいよ。運転するの楽しかったし」
海が怖くて仕方がなかった。水平線の向こうから、自分たちを飲み込む怪物が覗いていたから。静かに這い寄り、“ヒト”として溶け込んでいたから。
「わしが守っちゃるき、どこにも行きなさんなや」
主の最期を見届けた佩刀、その彼の気持ちに嘘偽りはない。強く握られた手に、指が優しく絡められた。
海へ
『堕神は海神となりて』
愛情と憎悪は表裏一体でありながら究極の同位体。しかし、愛憎の対になるのは無関心。
魔女にとって、彼らは確かに仲間だった。色欲に溺れ、怠惰な生活を送る彼らを諌めたが、彼らの罪を全て押し付けられてしまった。騎士が彼女を救い出したが、壊れた心は戻らない。
助けを乞う言葉も、下される判決も、魔女はぼんやりと聞いていた。 彼らの転落やその末路はどうだっていい。自分を大事にしてくれる騎士がいるのだから。
裏返し
閉館後の片付け作業。来館者は皆帰ったはずなのに、足音が聞こえる。少し目を離していた間に、出しっぱなしの椅子も、机の上にあった本も元に戻されていた。
いたずら好きな精霊かと考えつつ、出入り口を施錠しに向かう。そんな彼女の背後に、長い影が覆いかぶさった。
「夜隅の狩人」
鳥のように