聞こえるのは漣の音。
寄せては返す波が足元に押し寄せる。吹き抜ける潮風が、白銀の髪を揺らした。
「主」
近侍が彼女の後を追って来た。柔らかな砂が足を絡め取るが、足跡だけが残る。
「無理言うてすまん」
「いいよ。運転するの楽しかったし」
海が怖くて仕方がなかった。水平線の向こうから、自分たちを飲み込む怪物が覗いていたから。静かに這い寄り、“ヒト”として溶け込んでいたから。
「わしが守っちゃるき、どこにも行きなさんなや」
主の最期を見届けた佩刀、その彼の気持ちに嘘偽りはない。強く握られた手に、指が優しく絡められた。
海へ
『堕神は海神となりて』
8/24/2024, 7:18:24 AM