本棚には講義のテキストだけでなく、興味のある本が並び始めた。友人が色鉛筆で描いた絵も吊るした。クローゼットの中の服も少しずつ色味を増やしている。
弓毛を緩め、本体を拭き上げる。これのおかげで毎日食べていけるし、教授と二人で演奏することが決まった。
記憶は無いけど、今が幸せだから。
Title「1Kの中身」
Theme「狭い部屋」
濡羽色の髪は華やかに飾り立てられ、細い肩口は足先まで深緋に包まれている。東洋の若き奏者、それだけで位有る者は惹き寄せられるが、影に潜む紳士の存在に気付いた瞬間に邪な心は恐れを抱くだろう。
だがしかし、若気の至りで弄んだ相手が、高嶺の花となるなんて誰が考えたのだろうか?
Title「オペラグラスの向こう側」
Theme「失恋」
「君の思うままに演奏するといい」
教授は鍵盤に指を置き、最初の一小節を弾き始める。少女も弓を構え、追うように弦を爪弾く。
軽やかな旋律は徐々に盛り上がりを見せ、ついに彼女が動く。ヴァイオリンが踊り出て、優雅に主旋律を勤め上げる。伴奏に徹するピアノも、繊細さを増して寄り添い続ける。
Title「季節外れのキャロル」
Theme「梅雨」
「子供たちにどう埋め合わせをすべきか」
彼女なら妙案を出してくれるが、起こすのも忍びない。静かな寝息と、耳元の羽が擽ったくも心地良い。滑らかな髪を梳いて見れば、絡まることなく指をすり抜ける。
車窓から望む月は煌々と輝いている。今宵の天体観測は皆で願い事をする予定だったが、私は──
Title「昇華」
Theme「月に願いを」
鞄と灯を濡れないように覆い、息を潜めるようにして歩き続けていた。僅かに残った感覚を頼りに足を進めていたが、それも長くは続かない。目眩もしてきて、少し先の景色もはっきり見えていない。
近くの壁にもたれかかると、足音が聞こえてくる。逃げなければ、という気持ちはあれど足は動かない。
Title「邂逅」
Theme「降り止まない雨」