「ねぇ、何でいつも黒手袋してるの?」
無垢な瞳がボクに聞く
「なんとなく、かな」
そう言って、彼を撫でた。
掌とは、心の内側だ。
心理学的にも掌を見せることは心を開いてることと同じと聞く。
だから。
見せたくないものは黒い布で隠さなければ。
触れられたくないところはちゃんと護らなければ。
「………いつか、手袋を外せる日が来るといい」
そんな夢物語を、零した。
「泣かないで」
そう言って君は私の涙を拭う。
あぁ、やめて。そんな幸せそうに笑わないで。
腹部から零れ落ちる血液は私の手を赤く染めていく。
この手に握られた刃物。
敵だとわかっていたのなら、突き放してほしかった。
こんな苦しみを味わいたくなかった。
「ごめんなさい」
あぁ、秋が死んで冬が始まる。
この恋心を殺してしまおうかと、何度思ったことか。
恋なんて怖くて怖くて、ただ弱みにしかならない。
この恋心を、殺してしまえば。
そうやって手に掛けようと頸を圧えれば、それは泡を吹く。苦しげに呻きながら。されど抵抗などせず。
もう少しで死のうかというとき。とん、と肩を叩かれる。
振り返れば悲しげな顔をした幼い自分が立っていた。
彼は一言、言う。
「終わらせないで」
それは絶望と、悲しみを含んだ、縋る様な声だった。
そんな声を聞いてようやく気づく。
自分はこの恋心に間違いなく救われていたのだ、と。
この恋はまだ微熱だ。
そう信じていた。
「ボクは貴方に恋なんてしちゃいけないのに」
微熱なんかじゃなかった。
あつくてあつくて脳細胞が熔けてしまいそうな。
この叶うことのない恋がどうか伝わってほしくないと。
そう、願った。
セーターを抱きしめていた。
からっぽな部屋で、独り。
「ねぇ、」
声が聞こえて振り返る。
「泣かないでよ、もう」
昔と同じ笑顔で笑う彼女が居る。
「一番泣きたいのは此方なんだから」
嗚呼、ごめん。そうだったね。
彼女が抱きしめるセーターは、僕が彼女に編んだものだ。