祖母が退院して家に帰ってきた。
だけど、私を見てこう言った。
「……どちらさま?」
少しショックだったがよくよく話を聞いてみると、孫の一人ということは理解していた。でも名前がわからなかったそうだ。
そして私の父、祖母から見て義理の息子のことは全くわからないみたいだった。
実の娘である母のことはしっかり覚えていたのにも関わらず。
長年同居しても忘れる時は一瞬なんだなと寂しい思いがした。
その頃の祖母はまるで記憶のランタンが点いたり消えたりと記憶があやふやになっていた。きっと本人も苦しかったと思う。
数ヶ月経ったら記憶のランタンはあらかた修復されて、私のことも父のこともちゃんと理解できるようになっていた。
このままいけば好きだったドラマもまた見られるかもしれないと思っていた。
でもその矢先、祖母が倒れた。
病院のベッドに横たわっている時、祖母の記憶のランタンはどうなっていたのだろう?
会話ができなかった。だけど、私を見たら嬉しそうに手を伸ばしていた。
私を認識していたのか、それとも娘だと思っていたのか、それはもうわからない。
祖母はもう、この世にいないだから。
でも時折、祖母が夢に出てくる。夢の中の祖母は楽しそうに笑って私を心配するような声かけもしてくれる。
……あの世でランタンは完璧に修復できたのだろう。
私はそう信じたい。
だんだんと寒くなっていくこの季節。
冬へと近づいていくこの季節。
温かいものが美味しいこの季節。
ココアやコンポタ美味しいです。
明日はポトフを作ろうかな。それともミネストローネにしようかな。
おでんとかでもいいけど、なんだか洋風な気分なんだよなあ。
君はとても嬉しそうに笑って、草原の上をくるくる踊っているね。
君の白いワンピースが翻ってキラキラと星に煌めいてとても綺麗だよ。
夜空に浮かぶ月も星も、本当に君のものになったみたいだ。
だけど君を照らす月はただただ無表情で君を見下ろしているね。
君だけのステージが面白くないんだろうけど、もう少し表情を繕ってもいいのにね。
まあでも仕方ないか。君はとてもじゃないけど褒めらる手段でこの世界を手に入れたわけじゃないものね。
力こそ正義だとか力こそパワーだとかそんな言葉が生易しく聞こえるくらいの圧倒的な暴力。
それでいて君に味方した全ての人をも星にしてしまったものね。
これで名実ともにこの世界は君だけのものだ。
いやはや、君みたいな強欲と暴力の権化みたいな人は初めて見たよ。恐れ入りました。
だけどさ、君はやり過ぎた。
僕の理想とする世界をよくもまあぶち壊してくれたね。
命を作るのって意外と大変なんだよ? 壊すのだけが得意な君にはわからないんだろうけどさ。
だからこそ君に与える罰は僕みたいなクオリティの命を作り上げること。
大丈夫。時間は無限にある。
一人じゃなんにも生み出せないなんて言い訳はさせないよ。僕は一人で世界を作ったんだから。
今幸せの絶頂にいる君。
次君が同じくらいの幸せを感じられるのはいったいいつになるかな?
しばらくは君がした罪の重さ、現実に打ちひしがれるといいよ。
僕はこう見えてすっごーく怒ってるんだからね。
木と太陽がある限りできるもの。それが木漏れ日。
どちらか一つでも欠けてしまったら影に消えたり、ただ日に当たっている場所になるため木漏れ日という概念その場から消えてしまう。
そう考えたら木漏れ日の跡というのは絶対に目に見えないものということになる。
まあ光だからそれはそうではあるのだが、なんだかちょっとだけ寂しく感じる。
ほんのちょーっとだけ。
庭で花を育て中。
ダリア、リンドウ、あとマリーゴールド……
とりあえずはこれくらい。
肥料をあげたり水をあげたりして、キレイな花を咲かせたらとても嬉しくなる。
いつか庭中を花でいっぱいに咲かせることができたら咲いた花を手折って花束にするのが目標であり夢であり約束。
まあ……未来の自分へのいつ果たされるかもわからないささやかな約束だけども。