バスクララ

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祖母が退院して家に帰ってきた。
だけど、私を見てこう言った。
「……どちらさま?」
少しショックだったがよくよく話を聞いてみると、孫の一人ということは理解していた。でも名前がわからなかったそうだ。
そして私の父、祖母から見て義理の息子のことは全くわからないみたいだった。
実の娘である母のことはしっかり覚えていたのにも関わらず。
長年同居しても忘れる時は一瞬なんだなと寂しい思いがした。
その頃の祖母はまるで記憶のランタンが点いたり消えたりと記憶があやふやになっていた。きっと本人も苦しかったと思う。
数ヶ月経ったら記憶のランタンはあらかた修復されて、私のことも父のこともちゃんと理解できるようになっていた。
このままいけば好きだったドラマもまた見られるかもしれないと思っていた。
でもその矢先、祖母が倒れた。
病院のベッドに横たわっている時、祖母の記憶のランタンはどうなっていたのだろう?
会話ができなかった。だけど、私を見たら嬉しそうに手を伸ばしていた。
私を認識していたのか、それとも娘だと思っていたのか、それはもうわからない。
祖母はもう、この世にいないだから。
でも時折、祖母が夢に出てくる。夢の中の祖母は楽しそうに笑って私を心配するような声かけもしてくれる。
……あの世でランタンは完璧に修復できたのだろう。
私はそう信じたい。

11/18/2025, 1:48:25 PM