彼女はいつも頑張っている。
私よりもかなり小柄だけど、革命軍のリーダーとして前を向いてグイグイ引っ張っている。
明るくて、笑顔が素敵で、心優しい素敵な彼女。
どんな困難にぶつかっても、どんな逆境でも、彼女は不敵に笑って「むしろ燃えるわ!」とやる気を見せていた彼女。
そんな彼女をみんな信頼して尊敬している。
誰にも弱いところを見せないけれど、私だけは知っている。
彼女が毎夜うなされていることを。
それを知ったのは偶然だった。その日とても怖い話を聞いてしまって、たまたま近くにいた彼女に一緒に寝てほしいと頼み込んだのだ。
彼女はすぐに快諾したから……まさか自分がうなされているなんて思いもしていないはず。
私はうなされていることを知った日から何かと理由をつけて彼女と一緒に眠っている。
「たすけて」「くるしい」「いやだ」「死にたくない」……彼女はずっとその言葉を繰り返している。
私はいつも安心させるように彼女へ子守唄を歌っている。
そして涙の跡も拭き取ってそっと頭を撫でるのだ。
夢の中でも安らぎを得られない彼女のために、少しでも安心感を覚えられるように。
この秘密は私だけが知っていればいい。
仲間たちも彼女も知る必要なんかないのだから。
半袖の白いシャツのあなた。
照らす太陽光が反射して眩しくて、あなたのことを直視できないの。
だけどそれを『カッコいいから直視できない』と前向きに解釈するあなたのこと、私は好きよ。
超ポジティブマンでちょっとナルシスト気味なあなた。
付き合うことになった時は友達や仲間内から色々言われたけど、あなたといると毎日退屈しないの。
あなたにとって私もそうであると嬉しいわ。
だから、いろんなところへ行って、いろんなものを見ましょ。
あなたの思いや考えをもっともっと知りたいの。
……でも一つだけお願いがあるの。
半袖の白いシャツがお気に入りなのは充分にわかったから、今年の冬はさすがに長袖にしてね。
見てるこっちが寒かったから。
もしも過去へと行けるなら、私なら何をするだろうか。
過去の黒歴史をなかったことにするか、今はもう出来ないあのFlashゲームをもう一度プレイするか……
いやいや、当時話題になったあの作品を映画館で見るというのもアリだな。
今では入手困難なあの本やあのグッズを買うということもできるな。
あの電車のラストランも見られたりするのかな?
でも私が考えているより遥か過去……例えば戦国時代や縄文時代、下手をすれば白亜紀に行くとなれば……私は御免蒙りたい。
サバイバル知識も戦う力もほとんどない、現代機器に慣れきっている人間なんて一日生き延びられるかどうかだろうから。
「真の愛って何だと思う?」
一人でチョコパフェを楽しんでいると不意に後ろの席から女性の声が聞こえた。
そのすぐあと「真の愛?」という疑問に満ちた声が聞こえた。この声も女性だったから二人でティータイムないしおやつタイムなんだろうな。たぶん。
「そ。True Love」
「なんで英語……」
「いいじゃん。で、あんたはどう思う?
あたしは固い絆だと思ってるけど」
その言葉に私はなるほどと心の中で呟く。
真の愛という字面は某プリンセスの作品をなんとなく彷彿とさせるけど……あれも突き詰めれば絆な気がする。
じゃあ絆は愛と言い換えられるのかな。それはそれでまた違うような気もするけど。
「うーん……私は真心とか信じる心かなあって思う。
もちろん愛情があることが前提条件だけど。
愛がなければできないことはたくさんあるけど、それはそれとして相手を信じる心がないと真の愛と呼べるようなものにならないんじゃないかなあ……って思うよ」
……中々深い。というか今更だけどこの会話は盗み聞きしていいようなものじゃない気がする……
だけど今更知らないフリもできないなぁ……
「ふーん……なるほどね。
んじゃ浮気した奴が言いがちな真の愛は何だと思う?」
「罪悪感と背徳感とアドレナリンでハイになって我を失って気持ちよくなりたいだけだからそんなものは存在しない!」
ものすごい早口で怒涛にまくし立ててる……
もしかして浮気された過去があるのかな……?
いやいや、邪推は良くないよね……うん。
「だよねー。いやはやバッサリ言ってくれてありがとね。お礼に奢るわ」
「えっ!? ちょ、待って!」
イスのガタタッと音と小走りの音がして、そーっと後ろ……というかレジの方を見てみると黒髪ストレートロングの女の子と茶色のボブカットの女の子がやいのやいの話し合っていた。
……仲いいんだなあ。名前も全然知らない人たちだけど、あの二人の友情が真の愛のようにずっと続けばいいな。
ちょっと溶けたチョコパフェを食べながら、私は心からそう思った。
旅をしているとたくさんの人と出会い、同じ数だけの別れがある。
そして別れたら基本、それっきり。再び会えるということはほとんどない。
だからこそまた会えた時の感動は何にも代え難いものだと思っている。
時には再会の約束をして中々会えないような奴もいるが、だからといって怒ったりはしない。
同じ旅人であるならば何があってもおかしくない。
たとえそれが最高のことでも最悪なことでも受け入れるしかない。
だからそう、またいつか会えたらそれでいい。
それくらい気楽に考えなきゃ心が衰弱してしまうのさ。