私は日々進化している。
いろんな知識を得て、いろんなことを考えて、いろんなものを食べている。
そんなの些細なことだと、当たり前だと言う人もいると思う。
でも考えてみて。まるっきり昨日と同じ私じゃないよ。
今日の私は昨日と違う私。明日の私は今日と違う私。
その積み重ねで未来の私が存在できる。
そして今この瞬間の私や過去の私を完璧にトレースすることは二度とできないのだろうね。
その時に得ていた知識も、考えてたことも、食べていたものも完璧に再現なんてできやしないのだから。
俺の家で幼なじみ殿と勉強会。
英語が壊滅的にできない幼なじみ殿はこの前のテストで大赤点を取ってしまい、追試の前に俺に泣きついてきた。
幼なじみ殿の英語の出来なさはわかっているつもりだったが……まあ、なんというか、俺の想像をゆうに超えていた。
「これはわかるか? “Sunrise”」
「すんりせ!」
「……サンライズな。意味は日の出。
これならわかるだろ。“Future”」
「ふつれ!」
「……フューチャーだ。未来っつー意味。
全部ローマ字読みしてどうすんだよ」
「だってー……英語なんて使わなくても生きていけるしー、今は翻訳アプリっていう便利なものがあるんだもーん……」
机に頬をぺったりくっつけてシャーペンを転がしている幼なじみ殿には学びの意欲が全くと言っていいほど、ない。
「おい、起きろ。追試どうすんだよ」
「え? んー……なんとかなるなる!」
いい笑顔でそう言い放つ幼なじみ殿に俺はダメだこりゃ。と心の中で匙を投げるのだった。
ふわふわ、ゆらゆら、ぱちん。
シャボン玉が風に攫われ飛んでいく。
弾けて消えるものもあるけれど、そうでないものは風に乗ってどこまでも飛んでいく。
それはまるで空に溶けるように上へ上へと、遠く高く飛んでいく。
「どうしても……ダメ?」
目をうるうるさせて上目遣いの彼女に決心が揺らぎそうになるけど、ここはグッと我慢だ。
「ダメなものはダメです」
「ちぇー……」
残念そうに彼女は口を尖らせるけど、僕にだって譲れないものはある。
さすがに動物の着ぐるみパジャマをペアルックで着るのは恥ずかしいよ……!
彼女だけならいつでもずっと見ていたいけど、僕も着るのはちょっとなんか、違うっていうか……
でも何かとてつもないチャンスを逃した気がするんだよね……
もし次に彼女が提案してきたら思い切って着てみてもいい……かも?
彼がいなくなる夢を見た。
彼は凄く悲しそうな顔をして「ごめんね」と呟いて私を置いて去っていく。
まって、まって! と私が走って叫んでも彼は振り返らず、背中はどんどん見えなくなっていく。
ついには完全に見えなくなって、絶望した私がうずくまって泣いている夢だった。
だから目が覚めてすぐ彼の部屋に彼がいるか見に行った。
彼は机に向かって何かを書いていた。ランプに照らされた横顔が普段見せない難しい顔で、少し見惚れてしまった。
私の視線に気がついたのか、彼はいつもの優しい顔になって私に微笑みかける。
「どうしたの? もしかして眠れないのかな?」
「……こわいゆめ、みた。あなたがいなくなるゆめ。
……いいこにしてるから、いなくならないで」
彼は私をギュッと抱きしめて「いなくなったりしない!」と叫んだ。
それがすごく嬉しくて、私の心は幸せでいっぱいになった。
でも……こんなに幸せでいいのかな。
彼の温もりを感じながら私は少しだけ怖くなった。