バスクララ

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5/7/2025, 12:48:24 PM

昼休みに大学の近くにある森を息抜きがてら散策してみる。
空を見上げるとイイ感じの木漏れ日が見えて、何かしらのインスピレーションが刺激されてる気がした。
でもそろそろ戻らなくちゃ。
授業が始まるからじゃない。この森にはタヌキやシカが出る。もしかしたらイノシシだっているかもしれない。だってちょっと歩けば山だし。
だから森の中にはロープが張り巡っている。
無闇矢鱈と人が奥に立ち入らないように。
野生動物がこちら側に来ないように。
さすがに森の入り口付近には滅多に姿を見せないらしいけど遭遇なんてしたくない。まだ死にたくないし。
……ここの木漏れ日好きなんだけど安全を考慮したら植物園の方がいいのかなあ。
でもお金払ってもこれ以上の木漏れ日が見られなかったら嫌だなあ。
そう考えながら大学へと戻るのだった。

5/6/2025, 12:27:01 PM

大好きなあのラブソング。
だけどその歌が好きだとを誰かに話したりしないし、カラオケで歌うこともない。
なぜならその歌は、親友の恋人を奪ってしまう歌だから。
私にそんな趣味があると思われるのは心外だし、何より私の状況と歌の状況がピタリと合致している今では余計な波風を立てたくはない。
あの二人は付き合いたてでとても幸せなのに、私のせいで二人の愛に亀裂を入れたくない。
例えあの歌が私の心情に寄り添っていても、私は二人の心を守らなきゃ。
……それが最善手だって、理解はしてる……

5/5/2025, 12:25:08 PM

家族アルバムを数年、いや十数年ぶりに開いてみる。
若い両親が二人で写ってる写真、300系の新幹線と一緒に写ってる笑顔の幼い兄、元気な祖父と祖母、ベビーカーに乗ってる赤ちゃんの自分……
いろんな場所へ旅行に行ったんだなぁとしみじみ思っていると、色あせた手紙を発見した。
こんなもの挟んだっけ? と首を傾げながら手紙を開くと、そこには拙い子供の字でこう書いてあった。
『おとうさん いつも おつかれさまです。
おとうさん だいすきです。
おとうさんの おち◯◯ん まっくろけです』
……最後の一文で吹き出した私は悪くないと思う。
というか、誰がこんなものを書いたんだ!?
笑いを堪えつつ母に訊くと、なんと私が幼稚園児の頃に書いたものだと言う。
で、その一文は母が半分悪ふざけで『こう書いたらお父さん喜ぶよ〜』と言ったら真に受けた私が大真面目に書いたらしい。
……おお母よ。子供になんてことを書かせるのだ。
だがそれよりも、なんでアルバムにこんなものを挟んであったんだろう……?
母は知らないと言うし、父も兄もわからないと首を横に振った。
……謎は深まるばかりである。

5/4/2025, 2:29:07 PM

黒髪ロングの、まるで絵に描いたような清楚系生徒会長。
彼女に憧れる生徒は数多く、毎日のようにラブレターや告白が絶えないらしい。
その度に彼女はほんのり眉を下げて断りの手紙や返事をしているそうだ。
そして言い回しもかなり丁寧で、決して相手を傷つけない言葉遣いにしているとのこと。
だから彼女を悪く言う人など滅多にいない。
だけどあたしは知っている。
一年二組の担任でもある数学の先生。その先生を見る目が違うことを。
あたしがそれを知ったのは偶然だった。
すれ違う瞳が彼女らしからぬ憎悪に塗れていて、思わず背筋がゾクッとしたのを覚えている。
不自然に固まったあたしを見て、彼女は優しい慈母のような笑みを浮かべ、人差し指をそっと口に乗せた。
口外したらガチでヤバいことになる。
そう本能が囁いたあたしは必死にコクコク頷いて逃げるように教室へ走った。このことはおそらく一生忘れないだろう。
彼女と数学の先生に何があったのかは知らない。知りたくもない。
ただ、彼女にも先生にもできるだけ関わりたくない。
触らぬ神に祟りなし。まだあたしは平穏に過ごしたいから。

5/3/2025, 12:27:16 PM

果てしなく続く青い青い空。
それと同じように歴史は続いていく。
大切なことを思い出した彼らの人生も、これからまだまだ続いていく。
もう二度と顔も声も交わすことのできない彼に、彼らは前と変わらぬ間柄で笑い合うのだろう。
青い青い空の果てに。


【忘却のリンドウ 16/16 END】

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