春風とともにやってくるのは花粉と黄砂とPM2.5……
ロクなものがない。
ここでロマンチックなことを書けたらどんなに素晴らしいだろうと思うが、生憎私はこれと某ピンクの悪魔しか思いつけなかった。
……まだまだ発想とヒラメキの修行が足りないようだ。
心を失い、こちらの声も届いているのかわからぬ青年に毎日声をかけ続けた少年がいた。
少年はその日あったことを青年に語り、青年は虚ろな目のまま虚空を見つめていた。
そんな日々が一年経とうかという頃、青年に変化が現れた。
青年が少年を見て、わずかに微笑んだのだ。
少年はそれに感動し歓喜の涙を流した。
そして青年の目からも一粒の涙が零れた。
その涙は誰のためなのか、何のために流したのか。
それは少年にも、おそらく青年にもわからない。
だが青年の心が戻りつつある前兆であるならば、それを阻止せねばなるまい。
青年は途轍もない力を神から与えられ、彼が心から願えば何でも願いが叶ってしまうのだ。
それこそ世界の滅亡でも、不老不死でも。
これ以上世界を好き勝手させるわけにはいかない。
それが勇者としての定めなのだから。
だが、一つ気がかりがある。
毎日声をかけ続けていたあの少年……どことなく青年に似ているような気がするが、あの子はいったい誰なのだろうか?
この前、ドールを自作した。
私の頭の中にいるキャラクターをリアルでも感じたくなったからだ。
頭も体も髪も顔のパーツも服も何もかもをSe◯iaで買った。
百均でドールが自作出来るとは数年前の自分なら信じなかっただろう。
Ser◯aすごい。
初めてのドール作成は少し大変だったが中々納得いく出来になった。
部屋の目立つところに置いておき、それを眺めるのが日々の小さな幸せになっている。
しかしドールもひとりぼっちでは寂しいだろうから、もう一体作ろうかと密かに考えている。
だが私のことだ。時が経てばあの子もこの子も作りたいとなっていき、ドールたちも賑やかになっていくのだろう。
そう考えるとちょっと楽しい。
まあその前に二体目を誰にするのかを決めなければならないが。
あたしの近くに春はあるの、
だって道ばたにたんぽぽ、いつも行く公園につくし、
あたしの家のプランターにはチューリップがたくさん咲いてるの!
ちょうちょだって飛んでるわ!
家の庭にある桜はちょーっとだけ咲いてるけど、お花見するのにはまだ全然。
早く満開になればいいのにって思ってると、お母さんがはるらんまんねって嬉しそうに言ったの。
よくわかんなかったから意味を聞いたら春のお花がいっぱい咲いてるっていうことだって。
漢字で書いたら春爛漫とも教えてくれたけど……春はともかく後の二つが少し難しすぎるわ。六年生になったら書けるようになれるかしら?
そもそも春らんまんって書いた方があたしはかわいいと思うのだけど、漢字で書けたらかっこいいのは確かよね。
まあでも、そんなこと今はいいわ。
せっかくの春だもの。たくさんお外で遊びましょ!
そしてまた新しい春を見つけるの!
「七色に光るものってレア感ある気がしないかね?」
原稿用紙をなぜか太陽にかざしながら先輩が呟く。
珍しく文芸部員らしい創作活動しているなあと思っていたのに、この先輩はすぐ飽きたらしい。
先輩は私が反応してないのにも関わらず語っていく。
「アプリのガチャのSRとかURとかの演出、ガチャ石も七色、つまりは虹色のものが多いんだよ。
やっぱり人類は虹に惹かれるものがあるのかねぇ?」
「バカなこと言ってないで文芸部員らしい活動してください」
私がそう言うと先輩はあっはっはと大笑いしてから楽しそうに腕組みした。
「うむ、君はいつだって辛辣だね!
まあでも考えてみたまえよ。虹というのは太陽光が水滴や鏡などに反射して七色に見える現象だ。
色が分かれているのは光の波長がそれぞれ異なっていて、同じように屈折率も」
「結論を言ってください」
先輩はむー……と唸りながら目を閉じ難しそうな顔をして何か考えるような仕草をした。
この人きっと言いながら結論を考える気だったな……?
しばらくして結論がまとまったのか先輩が目を開ける。
「……空に架かる虹は気象条件が限られる。そこから転じてレアだという認識があるのではないかと私は思うのだよ。
君も虹を見たらテンション上がるだろう?」
「……まあ、多少は」
「うむ、そうだよね!」
先輩は満足げに頷いてまた原稿用紙を太陽にかざす。
創作しないんだ……と思うけど、こっちの方がなんだか先輩らしい。
それでもやっぱり文芸部員らしいことはしてほしいけども。