秘密というのは一人で抱えるからこそ秘密たり得る。
誰かに話せばそれは真の意味での秘密ではなくなる。
……とかつて師は言っていた。
俺はその話を聞きながら内心そんなことはないと思っていた。
そりゃあ大多数に知れ渡ればそれは秘密じゃなくなるけど、少人数程度なら秘密であり続けるんじゃね?
……と本当にそう信じていた。
でも人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、数年経ってようやく俺は師が正しかったことを悟った。
本人が隠したいと思えば思うほど秘密はものすごい勢いで広まっていく。
だからと言ってくだらない秘密もそれなりの早さで広まっていく。
無論、口の固い奴もいるにはいる。しかし人という生き物のサガか、秘密というものを人と共有したいらしい。
だから完璧に隠すことができるのはその中でもほんの一握り。
いつしか俺は口を閉ざし、人と関わりを持たなくなっていった。
俺の今までを知る奴からは大層驚かれた。自分で言うのもなんだがこれまでは社交的だったからな。
それがどうしてこうなったのか色々な噂が飛び交ったが、真実は闇の中。
それこそ誰も知らない秘密ってね。
空気がシンとしている。
歩く人も車も少ない。
……夜明け前の町はこんなにも静かなのか。
空は少しだけ暗いが分ごとに明るくなっいく。
もう太陽が出ていてもおかしくはない。
いやおそらくあの山の向こうには太陽が顔を出しているのだろう。だってこんなにも山がシルエットみたいにはっきり見える。
しかし、こんな静かな夜明けは初めてだ。
季節柄のせいか、それとも心情のせいか。
どちらにせよこの先もしかしたらあと数回は体験するかもしれない。
……できればもう体験したくないのだがな。
今日の午前三時頃、祖母が他界した。
病院からの電話でそれを知ってから一睡もできなかった。
心臓がバクバクなって、涙が出て、時間が爆速で過ぎていって、なぜか頭の中ではマツ◯ンサンバが流れていた。
私なりに精神を落ち着かせようとしたのだろうか。
だとしても選曲が謎すぎるが。
それはさておき、その時思っていたことは先週のお見舞いのこと。
今までありがとう。おばあちゃんの作る豚汁美味しかったよ。いつまでも大好きだよ。
……本当はそんなことを言いたかった。
だけど弱っている祖母を見ていたら涙が溢れて、本当に言いたかったことは言えなかった。
もし本音を話せていたら。もし本音を言えていれば。
こんな後悔の念を抱くこともなかったのに。
タラレバを考えていても詮無いことではあるが思わずにはいられなかった。
始発で病院に行って、面会した祖母はとても穏やかな顔をしていた。
まるで……普通に寝ているようだった。
それから後は親戚などに電話をして、葬儀屋といろんな取り決めをして……悲しんでいる暇などなかった。
こんな時間になってなお、まだ祖母が生きているのではと心のどこかで思ってしまう。そんなことはないのに。
……しかしよりによって今日のお題が
heart to heart……本音で話し合うとはな。
お題が発表される前、今日の出来事を吐き出すために本日のお題を意図的に無視する気でいたのだが……
まさかこんなお題とは思ってもみなかった。
もちろん、私の今日の文章一部もしくは全てをフィクションだと思ってもらっても構わない。
あなたは信じたい部分を信じればいい。
これは本音だ。
私からあなたに花束を。
あなた好みじゃないかもしれないけど、とても綺麗でしょう? 長い年を経て可憐で綺麗な花束になるの。
ワインが熟成するように、少しずつ少しずつ変わっていく。毎日見ていても飽きないのよ。
この花束の名前は『永遠の花束』というの。
持ち主の生命力を少しずつ吸い取って、自らの糧とする。
その見返りとして持ち主好みの花束へと自らを変化させていく。
持ち主の命が尽き果てる少し前に花束は完成する。
そうしてこの花束は脈々と、誰彼となく受け継がれていったのよ。
花束に魅了されているといっても過言じゃないかもね。
さて、あなたの花束はどんな風になるのかしら?
あんな悲しい思いはもうしたくないから、大切な人を作らないと決めた。
だから人に厳しくして、わたしという存在を怖いものだと、近寄らない方がいいとアピールしてきた。
その甲斐あって、誰もがわたしを遠巻きにしていた。
『あの魔法使いの女の子はおっかない』と、その噂はいろんなところに轟いていた。
なのに今のパーティはわたしのことを気にかけてきて、あまつさえわたしのことを知ろうとしてくる。
最初はもちろん突っぱねた。そんなこと知っても何もならないから。
でも彼らはめげずにしつこくわたしを知ろうと、わたしの心を覗こうとしてきた。
『あなたのことをよく知りたいの』『君って本当は優しい子だよね』『旅慣れてるし戦い慣れてるけど、いつから旅をしているの?』
……うるさい。うるさいうるさいうるさい!!
ある日我慢できなくなったわたしは彼らに怒った。
杖だって振り回したし、魔法だって放った。
これでやっとみんなわたしに興味がなくなる。そう思っていたのに、一人が悲しい目をしてこう言った。
『君は……とても悲しい体験をしてきたんだね。
だから誰とも仲良くしないんだね……』
それを聞いたみんなは同じように悲しい目をしてわたしを見た。
そして最初に悲しい目をした人がわたしの頭を撫でた。
いつもならやさしくしないでと突っぱねられるのに、なぜかその時だけは涙が溢れて止まらなかった。
だけど、いつまでも甘えているわけにはいかないからその人を突き飛ばしてわたしはその場から去った。
だってわたしは一人ぼっちがお似合い。
そうよ、一人ぼっちでいいの……