【高く 高く】
高く 高く もっと高く
あの子の下に辿り着け
私よりももっと速く、高く飛ぶ彼女に
いつも私を引っ張ってくれた、彼女の手に。
―彼女は何時も私を引っ張ってくれた。
永遠に続く砂漠の地も
草と花が揺れ、光の生き物達が謳う広い草原も
灰色の天井から無数に降りてくる、冷たい雫が降ってくる、あの雨の地も
太陽の光を反射して、キラキラ光る氷と粉雪の上を猛スピードで滑った、冷たくも暖かい、あの雪の地も
私達の光を狙って容赦無く襲ってくる、黒い大きな龍と蟹がいる、あの暗い緑の地も
精霊達の記憶が静かに眠る、あの青い地も
私達のエナジーを奪う赤い石、落石やあの緑の地に居た黒い龍が飛び交う、あの赤い地も
どんな事があっても、彼女は一度たりとも私の手を離さず、ずっと引っ張ってくれた。
…いや、正確に言うと1度は雪の地で2人して盛大に転んで手を離しちゃったから一度たりともは違うけど。
でも、その時以外ずっとずっと私の手を握ってくれた。
私を守ってくれた。
だから、次は私の番。
次は私が貴方の手を掴んで、引っ張っていく。
この先どんな苦労や試練が待ち構えていたとしても、私は絶対彼女の手を離さない。
次は、私が貴方を導いていく。
だから、前を行く彼女に追い付かなければ
もっと速く もっと高く
彼女の光に、心に、手に
辿り着け。
【我等星の子達が目指す高みへ】
飛行の腕に自信がある者は前へ!
臆するな。やらねば始まらない!
上手く軌道に乗れないなら乗るまで飛べば良い
その一歩が踏み出し始めた者がそこへ行ける
行こう、高みへ!
【奇跡をもう一度】
無数の星々が輝く空に手を伸ばす
魔女は星を紡ぐ
星座を描くように、星々が巡り会うように
彼との想い出が詰め込まれた、数多の星が煌めく空に、魔女は1つ、また1つと星を紡ぎ星座を創り出す。
『…貴方に会いたい』
貴方の隣で見る、あの星空が好きだった
私に嬉しそうに星を教えてくれる、あの顔が好きだった
今思い返せば、彼との想い出が全て幻だったかのように想う
あれは全て夢だったのだろうか
淡い、泡沫の日々
だけど、決してこの胸に焼き付いては消えない
鮮烈な日々
ずっと、このまま私の胸から消えないで
例え私の中にある想い出が、全て夢か幻であったとしても、構わない
私の中で彼は生き続けるから
けれど、もしこの世界に奇跡が有るのだとすれば
私の願いが叶うのならば
また、もう一度彼に合わせて欲しい
嗚呼、星々よ。彼との想い出を煌やかせる、満点の星空よ
どうか、奇跡を起こし給え
もう一度、彼と巡り合わせ給え
終ぞ叶わぬ願いに想いを馳せ、魔女は今宵も星を紡ぐ。
まず黄昏ってなんだ
まずそこからである
単語一つ一つの意味を把握していなければその単語を正しく使用することは不可能である
てわけで黄昏ってなんですか
気がつけば暗い森の中にいた
静粛ばかりが騒がしい、無音が鳴く宵の森。
『此処は一体…』
そんな中で目を覚ました男は、目の前の光景に戸惑いながらも立ち上がる。
彼は服についた土や枯れ葉をパッパッと両手で払い落とすとぐるりと周りを見回す。
…周りには誰も居ない。あるのは闇に染まった紅い木の葉と果てしなく続く闇だけだ。
彼は一呼吸置くと大きく息を吸い、大声を上げる
『誰かいるかー!!!!』
誰かいるかー!!誰か…るかー 誰か…
彼の声は木々の間をすり抜け、闇へ木霊する。
勿論、返事などは帰って来ない。
彼は己しかいないという孤独感、そしてどうすれば良いのだろうという焦りに刈られ、もう一度声を上げようと大きく息を吸い込む、そして声を上げようとした瞬間。
チリン ドン シャン…チリン ドン シャン…
小さくも、何処からか鳴る祭囃子の音が耳に入りバッと周りを見回す。
(…とうとう幻聴が聞こえる位に頭がイカれちまったのか…?)
そう思いながら彼は聞こえてくる祭囃子の音を頼りに、果てしなく続く周りの闇を凝視する。すると木々の隙間からかなり遠くだが明るく照らされている場所があることに気付く。
彼はおそらく明るいであろう所を見つけるとホッと胸を撫で下ろすと同時に全身の力が抜けていくのを感じた。
(良かった、彼処に明かりがある。明かりがあるって事は人が居る証拠だろう。とにかくこんな暗い森の中から出たい。それに此処が何処なのか現在地も把握しなけりゃあな。)
そう思いながら彼は小さく照らされている場所へと足を勧めた。
ザッ…ザッ…と自身が踏んでいる枯れ葉と土の音を聞きながらどんどん足を勧めていくと同時に目的の場所は明るさを強めていく。
彼処から見た場所はもう目前だ。
彼は好奇心と緊張感を胸に抱き、徐々に強まる明かりに目を細めながら足を進めた。
…森を抜けた。少しの間は目が明かるさに慣れなくて開ける事が出来なかったがそれも徐々に慣れ、いざ目を開けて前を見てみると異様な光景が彼の目に飛び込んできた。
其れはまさに百鬼夜行であった。
宙を舞う無数の灯籠達。
何処からか聞こえる琴の音、太鼓の音、笛の音。
そして楽しそうに笑いながら右へ左へ流れる魑魅魍魎達。
ふわりふわり宙を踊る灯籠の下で歩いている妖怪達は、皆誰一人として悲しそうな顔をしている者はいなかった。皆笑顔で他の妖怪達と口々に話を交わせながら、足を運んでいた。
彼が目の前の現実離れした光景を目の当たりにして呆気にとられていた其の時、不意に横から誰かに声を掛けられた。彼は声を掛けられた方向へ顔を向けると、其処には狐の尻尾と耳を生やし黄色い目と白い髪を持ち紅い着物を着た男性が立っていた。狐の尻尾と耳を持った男は口を開く。
『汝、吾等が見えゆるか』
驚きで言葉も出ない。静かに頷く。
『汝、人間か』
また静かに頷く。狐の尻尾と耳を持った男はゆっくりと頷きながら口を開く。
『そうか、そうか。今宵は吾等妖達の祭りだ。
今宵ばかしは人間も吾等妖達も関係無く、皆で楽しもうではまいか。我等と共に一夜限りの泡沫に酔おう、さ、共に。』
狐の尻尾と耳を持った男は混乱する彼の腕を問答無用でがしりと掴むと、右へ左へ流れる魑魅魍魎達の中へ引っ張っていく。
彼はえ…チョッ?!!と声を上げながらも男に引っ張られながら共に魑魅魍魎達の中へ入っていったのだった。
誘いに身を任せる。
何処からか鳴る琴の音、笛の音、太鼓の音。
彼は狐の男と周りの妖達と共に笑顔で、楽しく、調子を合わせながら踊る、踊る、踊る。
踏み込んでしまったのか、其れ共いざなわれたのか、其れはもう最早どうでも良い事だった。
どうせもう戻ること出来ないのなら、このまま化かされてしまえば良い。
人も、人ならざる者も、この明るく昏い陽気に酔いながら己が飽くまで舞い踊ろうではないか。
醒めぬ夜が明けるまで。
そうして彼は妖達の祭りに溶けていったのだった
…ピピヒッピピピッ ピピピッピピピッ
アラームの音で目が覚める。
カーテンの隙間からは太陽の光が漏れ出ている。
『…嗚呼、もう朝か』
朝は嫌だなぁ、まだまだあの祭りに酔い知れていたかったのに。
片方の手で枕を整え、もう片方の手で毛布を引っ張る。
きっとまた見れる次の宵の夢までもう一眠り。
【きっと明日訪れる妖の祭りまで】