仕事帰りに妻から一通のラインが届いた。
「私だ」
何を伝えたいのか意味不明で少々どう答えれば良いか悩んだが、取り敢えずこう返答した。
「お前だったか、
本当にお前ならば、合言葉を言え」
別に私と妻の間に合言葉なんぞ無かったがどのような返答をするのか気になってそう送った。秒で返事が帰ってきた。
「辞めてやるよこんな会社ァ!!!!!」
ふむ、実に面白い。だが少しなっていない。
「手本を見せてやろう、代われ」
そう送って、私は妻に電話を掛けた。
思っていたよりもすぐに電話は繋がった。
そして私は深夜の公園に立ち寄り、肩幅程に両足を開き、強く地面に踏ん張って、深く息を吸い、そして大声で言い放った。
「辞めてやるよこんな会社ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!!!!!!!!!!!」
腹から出した私の声が深夜の公園に木霊した。
電話の向こうで、妻が爆笑してる声が聞こえた気がした。
エイプリルフールって事で妹に
「私達本当は孤児で今の両親に拾われたの」
って嘘ついたら妹大泣きしちゃって私はママに大激怒され、妹にネタバラシしたら頬にビンタ食らった。
みんなも噓は程々にね。
中の人はこんな嘘ついてないっすよ??
『あ〜らあらあらあらぁ〜?もしかしてぇ泣いちゃってるんですかぁ〜?』
血を思わせる程の赤い髪を肩まで伸ばし、灰色の目をした“元”仲間にそう言われ、俺は初めて自身が涙を流している事を自覚した。
俺達はある事件の黒幕を探して、時には共に窮地を脱し、そして遂に黒幕を突き止める事に成功した。互いに喜び、漸く捕まえる事が出来ると、そう思っていた。確信していた。
それなのに、漸く追い詰めたその黒幕は俺の仲間の名前を言い、『後は頼んだよ』とのみ告げるとステージから姿を消し、変わりに此奴がステージの中央に現れた。
彼は余裕綽々な微笑みを浮かれば、赤い髪を靡かせてライトの光を遮り影を作りながらクルクルと回っている。
『…お前は、何も感じていないのか?俺はお前の事をずっと仲間だと思っていたよ。それなのに、俺の事を裏切ったのか?今まで騙していたのか?』
彼は俺の言葉にも顔色一つも変えず、それどころか腹を抱え大笑いし始めた。咳き込みながらひとしきり嘲笑った後、彼は口を開く。
『イヤ〜すみませんねぇ、感動的なシーンで笑ってしまってぇ、ッw
ち〜な〜み〜にっ、先程貴方は裏切ったのか。とおっしゃっていましたが、その言葉間違えてますよぉ〜?
裏切るも何も、ワタクシはハナから貴方がたの敵でございます。だから貴方のように泣きもしないし、罪悪感なんてこれっぽっちも湧きませんよぉ〜。』
本当はずっと仲間でありたい。自分だって泣きたい。そう言ってくれるのを心の何処かで期待していた。しかしその期待はあっさりと踏みにじられ、悲しみは消え失せ代わりに怒りと憎悪の念が沸々と湧き出る。俺は銃を握る力を強め、裏切者の頭に銃口を向けた。
『あらぁ〜?ワタクシと戦う気ですかぁ〜?
そうなんですかぁ?そうなんですねぇ!
ならば受けて立とうではありませんかぁ!』
余裕綽々な笑みが憎たらしい。
彼はそう言うとハットのつばを下げて顎を引き、灰色の双眸で此方を見据えると言葉を紡ぐ。
『─動かなくなるまで踊らせてあげましょう』
互いに踏み込み、接近する。
野蛮で荒っぽいショーが、今始まる。
お目汚し失礼しました。