踊るように
この桜の木を見ていて思う。
別れの瞬間、最後まで美しくあり続ける桜はすごい、と。
終わりがあるから美しい、などという言葉を聞いたことがある。
けれど、自分は美しいモノが、最後まで美しくあろうとするから美しいのだと思う。
この踊るように散っていく桜を見てしみじみそう思うのだった。
貝殻
あなたは私にとって大切な人。
貴方はそう、例えるなら私にとって貝みたいな人だった。
沢山の色とりどりな貝殻を持っていて、どれも素敵に着こなすの。
でも、貴方はその殻をどれも気に入らなかったみたい。
だから私が引きずり出してあげたの。
「医者の子供」「天才」「一軍」「あの人の彼女」
どの殻も身につけていない貴方には誰も興味を示さなかったね。
当たり前だよ。
だって、綺麗な殻を身につけていない貝なんて価値がないんだもの。
自分から捨てておいて、返してだなんて馬鹿みたい。
貴方を素敵な貝に例えるのなら、私はヤドカリになるのかな。
きらめき
僕は、昔から周りのみんなが興味をもつモノに、魅力を感じる事ができなかった。
でも、心配性のお母さんを安心させるために「普通の息子」でいた。
そんな僕の無色な日々に色をつける出来事があったのは、中学二年生の夏休みだ。
その日、僕は家族みんなでおばあちゃんの家に泊まりに行っていた。
僕の住んでいる所に比べ、田舎だったが少し車を走らせればスーパーやコンビニ、ショッピングモールもあった。
父が親戚や友人の家を回っている中、時間を持て余した僕とお母さんはショッピングモールへ行った。
縫い物や野菜、畳などのお店ばかりで正直あまり楽しくはなかった。
お母さんもそろそろ飽きていた様で、近くにいい場所がないかスマホで検索をかけていた。
そんな時、僕の目に色が映った。
古いアンティークな雰囲気のお店。
手作りのドレスを作っている様で、ショーウィンドウにはふりふりの大きなリボンが特徴的なドレスが一つ。
それが僕には宝石の様に輝いて見えた。
車のゲームよりも、怪獣モノのアニメのグッズよりも、ずっとずっとコレが欲しい。
そう思ったのだ。
やっと見つけた僕の「きらめき」
家族には誇って言えるモノではないかもしれないけれど、確かにこの日から僕の人生には色がついたのだ。
開かないLINE
元親友と喧嘩をし、二ヶ月が経とうとしていた。
喧嘩をしたタイミングも最悪で、卒業式の三日前。
結局そのまま仲直りする事はなく、彼女は仕事のために地元を出て行った。
今、彼女がどこで何をしているのか分からない。
私に残された連絡手段はLINEのみだった。
あんな喧嘩をしたんだ、既にブロックされているかもしれない。
それでも、「もしかしたら」なんて希望が頭の片隅にあって。
約二ヶ月振りに彼女とのトーク画面を開く。
最後にしたLINEは卒業式の後、遊園地に行こうという内容のものだった。
勿論、遊園地は中止。
全部私のせいだ。
私はLINEに謝罪の文と、今度会えないかとだけ送った。
けれど、二週間経っても返事どころか既読すらつかなかった。
その事実に、改めて自分の罪の重さを知る。
こんなに苦しく、遅い二週間は初めてだ。
もしかしたら、今日こそ返事が来るかも。
なんて有りもしない可能性に期待して、私は昔のトーク画面を見返していた。
その瞬間、だんだんと彼女との思い出が蘇る。
「二ヶ月もかけて、アンタが一番大事だって気づくとか馬鹿みたいだね。」
涙で視界がぼやけていく。
自分勝手なのは分かってる。
自分から突き放しといて、裏切っておいてまた仲良くしたいとか。
でも、せめて「ごめんなさい」の気持ちだけでも、君に届いて欲しい。
不完全な僕
佐藤は誰もが認める完璧な学生だった。
勉強も運動も優れており、人間関係も円滑で、どこを見ても欠点らしきものは見当たらない。
周囲からは尊敬され、期待される存在だった。
佐藤自身も常に完璧を目指していたし、周囲からの称賛には満足していた。
けれど、そんな完璧な自分を否定される様な瞬間が度々ある。
その理由は、幼馴染である彰人の存在だった。
運動神経こそ抜群だが、他は平凡。
テストなんていつも赤点ギリギリだ。
僕の方が圧倒的に上で、完璧な僕はあいつにない全てを持っている…はずなのに。
なぜかいつも彰人の周りには人がいて、みんなが選ぶのは彰人だった。
僕は完璧なはずなのに、彰人にないモノ全てを持っているはずなのに。
彰人が持っていて、僕にないモノないて無いはず、そう思っていたのに。
彰人も僕にないナニカを持っていた。
僕はどうしてもコレが許せなくて。
けれど、何となく分かってしまうのだ。
勉強も運動も、人間関係も日々の積み重ねで全て手に入った。
手に入れる方法も知っていた。
でも、どう頑張ってもアレは僕には手に入らない気がするから。
どうしたら、彼の様になれるのだろうか。
今の僕に必要な事。
それを見つけるまで、僕は不完全なままなのかもしれない。