百合

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5/22/2025, 5:21:58 PM

いつもと同じアイシャドウで、違う塗り方をしてみた。
少しいつもより派手な気がする。
でも誰も気づかない、気づくはずもない。
それでも私だけが昨日の私と違うことを知っている。
いつもと同じように仕事に行って、残業して、帰ってくる。なんにも変わらない日常だけど、今日の私は昨日より倍以上可愛い気がする。

5/18/2025, 2:10:52 PM

時間をかけて化粧をした後、入学式以来のスーツに手を通す。
鏡の前でくるっと回っておかしくないか確認をする。
今日は大学の卒業式。でも卒業するのは私ではない、ずっと片思いしてた二つ上の先輩だ。
私は式典の手伝いを頼まれて特別に参加することができる。先輩の最後の姿を見ることができる。
嬉しいはずなのに鏡に映った私の顔はちっとも嬉しそうではなかった。
何か行動しなければ後悔する。この恋をキッパリ終わらせて次に進めるようにする。そう自分にも友人にも誓った。それでも何かできる気も、次に進める気もしなかった。
どうして2年はやく生まれなかったのか。
どうしてせめてあと一年はやく生まれなかったのか。
去年からそう思わない日はなかった。
高校生に比べれば2年の違いなんてすぐに埋められると思っていた。でも近くにいられても、2年同じ大学にいられても2年の差は埋められなかった。
今日、先輩が卒業したら彼はもっと先に行ってしまう
どんなに追いかけてもきっと届かないくらいまで行ってしまう。

後悔してもいい、結ばれなくていい
お願いだから…
今日だけは、今日だけでいいから待ってほしい

5/12/2025, 5:01:45 PM

ただ君だけ

大学生の時、片思いしていた人と偶然居酒屋で出会った。
サークルの先輩だったけど、2年の差は思っていた以上に大きくて、あの頃は遠くから見ることしかできなかった。だから先輩が私の名前を覚えているはずもなかったが、朧げな記憶からなんとか見つけ出してくれて無難な話してくれたのはとても嬉しかった。
2人ともお酒が入っているからかすんなりと話は進んで行って、いつのまにか出掛ける予定が成り立っていた。
酔っていたこともあり、夢と現実がよく分からなくなって当日まで信じられなかったが、家まで車で来てくれた時に流石に現実だと認識した。
その日は特に何事もなく終わって、でも取り止めのない話もお互いに楽しかったから次の予定も決まった。
3回目の時、流石に何かあるかなぁ、あってほしいなぁと思いながらおしゃれなバーで待ち合わせをした。
扉を開けて先輩を見つけた時、何か思っていたのとは違う空気を感じた。明らかに先輩の表情は暗く、なぜか少し悲しそうだった。
どうしていいのか分からず、つい大学の時の癖で
「お疲れ様です」
と声をかけた。
すると先輩は少しだけ微笑み、
「おつかれ」
と返してくれた。
違和感を感じつつも私は席について近況報告を始めた。
先輩に言葉を発させたら何か崩れるような気がしたから、意地でも喋り続けた。
でも2週間前にも会って話したばかりだからそこまで言うこともなく、1人語りは途切れてしまった。
なんとかして次の話題を…と言葉を絞り出そうとした時、先輩は重い口を開けた。
「海外…海外に転勤になった」
そう言った先輩は私の方を見ずにただグラスだけを見つめていた。
私は海外への転勤は今後の出世、キャリアアップに繋がると居酒屋で再会した時に言っていたのを思い出した。
本来ならば先輩にとって喜ぶべきことなのに、たった2ヶ月でこんなにも悲しそうな話に変わってしまうのかと思うと同時に、そうさせてしまったのは私のせいなのかもしれないと嬉しいはずの悲しい予想が出てきてしまっていた。
大学生の時から好きだった、憧れてた、もう二度と会えないと思っていた先輩。
そんな先輩ともしかしたらの未来を描いてしまった私の罰かもしれない。そう思ったら私の返す言葉は一つしか見当たらなかった。
「…そうですか。寂しくなりますけど、頑張ってくださいね。応援してます!」
我ながら酷すぎる答えだったと思う。こんな誰も救われない言葉があっていいものかとも思った。でもこれが私にできる最大の先輩への愛情表現だった。
私の言葉を聞いた先輩は少し止まったあと
「そうか…。ありがとう」
とまた私に微笑み返した。
私が見たかった先輩の顔はこんな悲しい顔じゃない。私を見て幸せそうに笑う先輩を見たかった。
そんな叶いもしない願いにそっと蓋を閉じて、私はバーを後にした。いつもは送ってくれる先輩も、この日だけはその優しさを見せてはくれなかった。むしろ送らない選択は優しさだったのだと思う。

そして私は先輩の卒業式に封印した恋心を、2ヶ月だけ開いて、また閉じてしまった。
おそらくもう開くことは二度とない。
そもそもこんなに苦しくなるくらいなら開けなければよかった。
でも、叶わないと分かっていても先輩だけを見つめていた私が存在していたことだけは、私は認めてあげたいと思う。

5/8/2025, 2:31:09 PM

届かない…

3回生はかっこよく見える。
もはや大学における通説のようなものに私は見事に踊らされていた。
サークルは同じだけど自分とは関わりのなかった先輩
最初はなんとも思っていなかった。けど偶然同じ授業をとっていて、先輩を見つけた時に何故か嬉しくなってしまった
それから授業のたびに先輩を探して、話せもしないのにその授業が楽しみで仕方がなかった。
その授業も今日で終わってしまう。
そして来週には先輩はサークルを引退する。
そうすればもうサークルには来なくなるし、見かけることもほとんどなくなってしまう。
先輩のことが好きなのかははっきりとわからないけど、このままは嫌だという気持ちはわずかながらにあった。
前の授業が終わってその授業の教室に移動する。
開始までまだ5分あるというのにそわそわして仕方がなかった。
10秒ごとに周りを見渡す。教室の扉が開くたびにそっちを見る。
授業開始のチャイムが鳴って、先生がマイクで話し始める。
それでも扉はもう開く気配がなかったし、後ろの方で座っている様子も確認できなかった。
すると先生が「こんな日によく来たね」と私たちに向かって言った。なんのことかと思いスマホを見ると時間の上に今日の日付が見えた。
「12月24日」
大学は26日まで普通にあったから全くもって気づかなかった
そうだ…今日クリスマスイブだ

この後の先生の話なんか入ってくる気はしなかったが、私は文字で溢れているプリントを見るために下を向いた

5/6/2025, 4:22:53 PM

ラブソング

私の歌書いてみてよ
学園祭での演奏準備をしている彼にそう言ってみた
すると彼は
君を歌の枠におさめたくないから書かない
と真剣に答えた。冗談のつもりで言ったから、意外と真剣に答えられて驚いたが、彼の言葉は嬉しかった。
最後まではっきりとは言わないロマンチスト気取りだと分かっているから私は、歌にしたら終わりが見えてしまうような気がして嫌だから歌にはしないと彼の全ての気持ちを自分の中で解釈することにした。

あれから8年
彼は今、人気バンドグループのボーカルとして活躍している。
彼が作曲するラブソングは心当たりがあった。というか心当たりしかなかった。
夜2人で散歩しながら見た桜が普段よりも美しかったこと
喧嘩した時買ってきたプリンが苦手な抹茶味で、より激しくなったこと
彼からもらったネックレスだけ置いて二度と戻らなかったこと
私と彼と思い出が数年越しに歌となって表れていた
私の歌書いてみてよ
彼はこの提案を8年越しに受け入れた。
私が言ったことだから怒る理由も悲しむ理由も私にはない
でも、ひとつだけわがままを言うとしたら
歌じゃなくて思い出のままにしてほしかった

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