【眠りにつく前に】
伝えよう 必ず
眠りにつく前に きっと
伝えよう 君への愛を 君への感謝を
囁く様に 叫ぶ様に
眠りにつく前に 伝えよう
君の好きなとこを
数え切れなくって そのまま朝になるのを望んで
暗い冷たい夜を 君の暖かさで乗り越えよう
伝えよう 愛を 好きを 感謝を
眠りに ついてしまう前に
安らかに 眠ってしまう前に
【永遠に】
※恐怖描写があります。嫌な人は飛ばしてください。
ピピピピ
ピピピピ
ピッ
目覚ましの音で意識がぼんやりし、布団の中で丸まる。
起きたくない。そう思うが、新しいプロジェクトのリーダーになっちゃってるから行かないと、、。
『ん〜、、』
唸り声を上げ、バサァッと布団から立ち上がる。
即座に布団を畳み、顔を洗って朝食を作る。
今日は目玉焼きとパリパリウィンナー、卵焼き。
自炊はできるから節約!
のんびりご飯を食べていたらあっという間に時間が経ち、急いで席を立つ。
『やばやばやば、、』
スーツを着てパンプスをひっかけ玄関を出る。
満員電車に押し潰されながら会社に向かう。
いつもの日常の一片。
『おはようございま〜す。』
挨拶を返してくれる社員さんに会釈を返しながらデスクを座り、パソコンを立ち上げる。
カタカタとキーボードを打ち、いつもの業務をこなす。
12時。
『今日時間なくてさ〜、、』
『いつもお弁当作って偉いよ〜』
同期と一緒にお昼。
午後からは会議。
『このプロジェクトの目的はーーーー』
そして定時に帰る。
うちはホワイト企業。
『お疲れ様でした〜』
帰宅ラッシュの満員電車にまた揺られ帰る。
いつもの、何気ない日常。
後数十メートルで家だ。
ドンッ
『あ、すみませ』
ドサリ
視界が反転し、綺麗な満月がちょうど目に入る。
『ぇ、、?』
理解ができない。思考が追いつかない。
目の前にはフードを被った男。
否、随分前に別れたはずの、元彼。
『ハァ、ハァ、、お前が悪いんだ。お前が、、他の男なんかと一緒になるから!お前が!!』
ブスリ、ブスリ、
刺されるたびに激痛と腹部が熱い。
ピクリピクリと脚が跳ねる。
『お前も殺して、俺も死ぬ。そしたら、一緒に、ずっと永遠に一緒になれるよな?』
私の、何気ない日常はなくなり、
やがて私は、、、
血飛沫を飛ばしながら倒れる彼の永遠になった。
【理想郷】
ここは楽しいユートピア
自由に生きれる理想郷
貴方の理想になれる場所
みんな笑顔で踊り出す
ユートピア最高!ユートピア最高!
教祖様万歳!教祖様万歳!
ここは楽しいユートピア
貴方も来てみてくださいね
いつでもご入会を、待っています
※全くのフィクションです
実際にそんな団体ありません
【懐かしく思うこと】
春の縁側。
庭に咲いている小さな桜。
春風と何処からか香る花の香りを鼻いっぱいに吸い込む。
『お茶ですよ。』
声が聞こえて振り返る。
私にお茶を置いてくれるのは、何十年も連れ添ってきた家内。
『ありがとう。』
何十年前とは違ってしゃがれた自分の声。
家内は微笑み、縁側に座る。
『将道さん、もう、50年経ちましたね。』
『そうだな。』
家内は湯気が揺蕩う湯呑みを傾け、一口飲んだ。
風が優しく吹き、家内の髪を揺らす。
初めて会った時も、風が吹いている春の日だった。
『将道さん、覚えてますか。あの春の日。』
『覚えているよ。一目惚れだった。』
あの春の日。
通学路を歩いて帰っていると、道端の花をジッと見つめている家内と出会った。
少し日が傾き始めており、その茜色の夕日に横顔が照らされ、とても綺麗だった。
庭には、桜が家内に話しかける様に揺れている。
ポカポカと太陽が暖かい。
『将道さん。愛してますよ。』
『うん。知ってるよ。私はもっともっと、愛してるよ。』
私を見つめるその優しい眼差し。
細長い指、暖かい手のひら。
小柄で守りたくなるほどの小さな背中。
全部、懐かしい。
私を見つめる笑いジワが刻まれた優しい眼差し。
シワが目立つが、暖かい手のひら。
今では私の方が小さくなったが、今でも守りたくなる小柄な背中。
全部、愛しているよ。
『将道さん、、私を一生守るって言いましたよね、。』
人はいつか死ぬ。それはわかっている。
『何で、、最期まで、私を守ってくださいよ、、』
でも、貴方は、、嘘吐きです。
呆気なく、あんなにも呆気なく。
葬儀や遺産やらで貴方の死を悲しむ暇はなくて、今になって涙が溢れて止まりません。
腰が軋むのを感じながら立ち上がり、愛する人の遺影に近づく。
笑顔で笑っている、"あの時"の将道さん。
眩しいほどの笑顔で笑ってくれる太陽の様な顔。
ゴツゴツとした力強い手。
逞しい体躯はいつも、私を守るためにあった。
全部、懐かしい。
今でも変わらぬあの眩しい笑顔。
シワシワだけど、いまだに力強い手。
細くなった体には、まだ若い頃の体躯の名残があった。
全部、愛しています。
『これからも、懐かしいって思いながら余生を生きますね。』
『ああ。守れなくて、ごめんな。』
遺影に静かに手を合わせる老婆に向かって、桜が小さく揺れた。
【もう一つの物語】
ぽよぽよとする水の中。耳の内側でポコポコ鳴っているみたい。
僕は目を開ける。
目の前には僕にそっくりの女の子。
女の子も目を開けて、ふふふっと笑う。
『ねえ、ここはどこなの?』
『私たちは、選ばれたんだよ。もうすぐ。もうすぐしたら、出られるよ。』
女の子は相変わらず笑っていた。
『♪〜♪〜♯〜』
この部屋に直接響く様な、まるで神様が空の上から何かを歌っている様な、女の人の歌声が聞こえる。
『ねえ、この歌は?』
『よく眠れる歌だよ。私と君は、2人で1つ。』
『うぅ、、』
突然、部屋が揺れる。
『な、何?!何なの?』
ビックリして、水の中にいる体がくるりと回る。
ドドドド、、
どこからか水が流れている。
『水が!なくなっちゃうよ!』
『わあっ!』
女の子が流されていく。
このままじゃ、、
伸ばした手は、届かなかった。
『私と君は2人で1つ。また、きっと会える。』
女の子は最後に、消えそうな声でそう言った。
ここ数日、部屋に直接響く歌は聞こえなかった。
啜り泣く声だけが、部屋にこだましていた。
今日は1番、部屋が揺れる。
女の神様の声も、とても苦しそう。
『うっ、、うぅ、、』
『まゆの、、君のせいじゃない。大丈夫。きっと、生まれ変わってきてくれるさ。』
僕は今、光に向かって泳いでいる。
泳がなきゃいけないって、部屋が押し出してくるんだ。
もう少し、、もう少し。
オギャアアアアアアア!オギャアアアアアアア!
分娩室に赤子の鳴き声が大きく響く。
廊下のソファで座っていた父親と思わしき男性はホッとしたように息を吐く。
『ありがとう。生まれてきてくれて、ありがとう。』
いつか、きっと。
2人はいずれ出会うだろう。
もしかしたら、彼の妹になって出会うかも。
だって2人で1つ、なのだから。