駄作製造機

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【もう一つの物語】

ぽよぽよとする水の中。耳の内側でポコポコ鳴っているみたい。
僕は目を開ける。
目の前には僕にそっくりの女の子。
女の子も目を開けて、ふふふっと笑う。
『ねえ、ここはどこなの?』
『私たちは、選ばれたんだよ。もうすぐ。もうすぐしたら、出られるよ。』
女の子は相変わらず笑っていた。

『♪〜♪〜♯〜』
この部屋に直接響く様な、まるで神様が空の上から何かを歌っている様な、女の人の歌声が聞こえる。
『ねえ、この歌は?』
『よく眠れる歌だよ。私と君は、2人で1つ。』

『うぅ、、』
突然、部屋が揺れる。
『な、何?!何なの?』
ビックリして、水の中にいる体がくるりと回る。
ドドドド、、
どこからか水が流れている。
『水が!なくなっちゃうよ!』
『わあっ!』
女の子が流されていく。
このままじゃ、、
伸ばした手は、届かなかった。
『私と君は2人で1つ。また、きっと会える。』
女の子は最後に、消えそうな声でそう言った。
ここ数日、部屋に直接響く歌は聞こえなかった。
啜り泣く声だけが、部屋にこだましていた。


今日は1番、部屋が揺れる。
女の神様の声も、とても苦しそう。
『うっ、、うぅ、、』
『まゆの、、君のせいじゃない。大丈夫。きっと、生まれ変わってきてくれるさ。』

僕は今、光に向かって泳いでいる。
泳がなきゃいけないって、部屋が押し出してくるんだ。
もう少し、、もう少し。

オギャアアアアアアア!オギャアアアアアアア!

分娩室に赤子の鳴き声が大きく響く。
廊下のソファで座っていた父親と思わしき男性はホッとしたように息を吐く。
『ありがとう。生まれてきてくれて、ありがとう。』

いつか、きっと。

2人はいずれ出会うだろう。

もしかしたら、彼の妹になって出会うかも。

だって2人で1つ、なのだから。

10/29/2023, 12:14:05 PM