シン

Open App
1/16/2025, 12:59:31 PM

【透明な涙】
私は空っぽな人間だ
私には周りの人達の感情が分からなかった
理解出来なかったのだ
そんな私は、まるで心をどこかに
落として来てしまった様だった

そんな私にも話し相手になってくれる人がいた
彼が一方的に話し私は聞くだけだった
彼の話すことは理解出来なかったが
それで良いと思った

でも、ある時を境に彼が来なくなった
飽きられてしまったかなとも思ったけど
待つことには慣れている

ある日、男数名が私のもとへ来た
男のひとりが
「ちゃんと土産も用意したんだぜ」
と私の前にナニカを投げた
それは人のかたちをしたナニカだった
でも私には分かってしまった
分かりたくなかった
だって、その人のかたちをしたナニカは
見るも無惨な姿をした彼だったのだから

私の反応を見るや否や男たちは去って行く
私は彼に近づく
そして、視界が滲んでいることに気づいた
『これ、は…涙?』
頭が酷く痛む
前にもこんなことがあった様な…

そして、全て、思い出してしまった
自分が人間ではなくアンドロイドだということ
しかもただのアンドロイドではなく
心を感情を持って生まれたアンドロイドだということ
彼に恋心を抱いていたということ
上の者がそれをよく思っていなかったこと
記憶を消されたこと

私は自分の無力さを嘆いた
昔も今も、透明だった私を見つけてくれた彼は
私のせいで亡くなった
『ごめん、なさい…約束、守れなかった』

“「どんなに記憶がなくなっても君を守るよ」
 『私も、記憶がなくなろうとあなたを守るわ』
 「じゃあ、約束」
 『えぇ、約束』              ”

きっと、また記憶を消されるだろう
上の者にとってはアンドロイドは
兵器でしかないのだから
それでも良い、いくら記憶が消されようと
彼のもとへ行けるなら
部品の2、3個壊れようが構わない

今度こそ、彼に会って約束を果たすんだ
そのためならこの世界が壊れてしまっても良い
だって、私はあなたが好きだから

1/15/2025, 11:10:35 AM

【あなたのもとへ】
今すぐ、あなたのもとへ行って
抱きしめさせて欲しい

こんな時代だから
まだまだ、制限される時代だから
君に会うことも触れることも出来ない

写真の中では君も満開の笑顔なのに
実際にその笑顔を見ることも出来ない

あぁ、今すぐにでもあなたのもとへ行けたなら
僕の出来ることを精一杯やって君を笑顔に出来るのに

分かってる、今は我慢する時なんだって
分かってる、分かってはいるけど
それでも、君に会いたい、会いたいよ

せめて、この心だけでもあなたのもとへ

1/14/2025, 12:08:11 PM

【そっと】
そっと、君に触れる
君はその小さな手を目一杯伸ばして
僕たちに笑いかける

その小さく優しい微笑みをする君に
僕たちも微笑み返す

この温かく天使のような…
でもしっかりとした重みを感じる、我が子

自分が本当に“パパ”になったのだと
告げられている様だ

実際、この手で触れるその時まで
自分が“パパ”になったという実感がなかった

でも、今なら分かる
僕は今、この瞬間、小さな君のパパになったのだ

きっと、この先、沢山の苦労と沢山の思い出を
紡ぎ上げていくのだろう

それでも、君のママと小さな君を守って行くと誓おう
だから、安心して大きくなってね

1/13/2025, 12:29:08 PM

【まだ見ぬ景色】
私はこの春、上京する
別にこの町が嫌いな訳ではない
むしろ、この町の人たち、風景は大好きだ

町の人たちは優しいし誇れるものは沢山ある
でも…いや、だからこそ私はこの町を出て
外の世界を知らなければならない

まだ見ぬ景色、まだ会わぬ人々
まだまだ、私の知らないことが沢山ある

外の世界を知り、学び、経験して
いつかまた、この町へ帰って来られる様に

大きな期待と少しばかりの不安を抱え
さぁ、見に行こう
まだ見ぬ景色へ
会いに行こう
まだ会わぬ人々へ

1/12/2025, 11:11:29 AM

【あの夢のつづきを】
俺は一度、夢を諦めたことがある

きっかけは本当、些細なことだった
正直、その時はそれが最善だと本気で思っていた
あいつらには何も告げず、俺は舞台から去った

あいつらの居ない日常にもやっと慣れて来た頃
ふらっと、立ち寄った劇団で演劇を見た

出来たばかりで素人レベルの演劇だったが
ふと、自分が“自分だったら…”
“あいつらとだったら…”と考えていることに気づく

(あれ、俺、こんなに演劇、好きだったっけ?)

そう思ったら、居ても立っても居られなくて
気づいた時にはあいつらのいる劇団に走っていた

扉を開けるとあいつらが俺の方を見ている

「今更、何しに来た」
『ごめんなさい、都合が良い
        自分勝手だってことは分かってる
 二度とこの劇団に関わるなと言うならそうする
 それでも、俺はお前らと
          もう一度あの舞台に立ちたい』

あいつらと俺の間に緊張が走る

「…もう、俺たちを置いて行かないと誓うか?」
『っ…誓う、誓うよ』
「…おかえり」
『…ただいま』

(ありがとう、こんな俺をもう一度受け入れてくれて)

「それはそうと、なんで劇団を抜けたんだ?」
『あっ…えっと…その…』
「はぁ⁉︎‘脅迫文が届いてた’だ⁉︎」
『うん…‘俺が辞めないと劇団ごと潰す’って』
「ばっか!そう言うことは先に言うんだよ‼︎」
『ごめん、前々からそう言うの結構あったから…
 それに俺のことでお前らのこと巻き込むの
          なんか、申し訳なかったし…』
「俺が厳しい過ぎたかもとか
     変なこと考えたって言うのに…お前は💢」
『それは、ごめん…』
「二度とそう言うことするなよ!絶対だぞ!」
『分かったよ』

ありがとう、俺のことを受け入れて
俺にあの日の夢の続きを見させてくれて
やっぱり、お前らといるのが一番良いや

Next