シン

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【透明な涙】
私は空っぽな人間だ
私には周りの人達の感情が分からなかった
理解出来なかったのだ
そんな私は、まるで心をどこかに
落として来てしまった様だった

そんな私にも話し相手になってくれる人がいた
彼が一方的に話し私は聞くだけだった
彼の話すことは理解出来なかったが
それで良いと思った

でも、ある時を境に彼が来なくなった
飽きられてしまったかなとも思ったけど
待つことには慣れている

ある日、男数名が私のもとへ来た
男のひとりが
「ちゃんと土産も用意したんだぜ」
と私の前にナニカを投げた
それは人のかたちをしたナニカだった
でも私には分かってしまった
分かりたくなかった
だって、その人のかたちをしたナニカは
見るも無惨な姿をした彼だったのだから

私の反応を見るや否や男たちは去って行く
私は彼に近づく
そして、視界が滲んでいることに気づいた
『これ、は…涙?』
頭が酷く痛む
前にもこんなことがあった様な…

そして、全て、思い出してしまった
自分が人間ではなくアンドロイドだということ
しかもただのアンドロイドではなく
心を感情を持って生まれたアンドロイドだということ
彼に恋心を抱いていたということ
上の者がそれをよく思っていなかったこと
記憶を消されたこと

私は自分の無力さを嘆いた
昔も今も、透明だった私を見つけてくれた彼は
私のせいで亡くなった
『ごめん、なさい…約束、守れなかった』

“「どんなに記憶がなくなっても君を守るよ」
 『私も、記憶がなくなろうとあなたを守るわ』
 「じゃあ、約束」
 『えぇ、約束』              ”

きっと、また記憶を消されるだろう
上の者にとってはアンドロイドは
兵器でしかないのだから
それでも良い、いくら記憶が消されようと
彼のもとへ行けるなら
部品の2、3個壊れようが構わない

今度こそ、彼に会って約束を果たすんだ
そのためならこの世界が壊れてしまっても良い
だって、私はあなたが好きだから

1/16/2025, 12:59:31 PM