結生

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9/16/2024, 1:26:20 PM

#17 【空が泣く】


君が舞うことを忘れてしまった

あんなに素敵な足取りで、軽やかに
滑らかに、優しく、時に激しく踊っていたのに

彼は歌うことを忘れてしまった

あんなに素敵な声で、伸びやかに
高らかに、心からの旋律を放っていたのに


僕は笑うことを忘れてしまった
くだらないことでも、よく笑っていたはずなのに
今はなにも感じない 感じないんだ


ぽつりぽつりと
雨粒が。


ああ、空は代わりに泣いてくれるんだね。

僕たちが掻き消えてしまうくらい
強く強く降り続いてくれてもいいんだよ。

9/15/2024, 12:57:45 PM

#16 【君からのLINE】


推しのFCに入ると、LINEみたいに会話できる機能がある。

わたしはその推しの子のことが当然、好きなのだが
どうも好きの種類が違うのだ。

異性で、年下。
ステージではとてもキラキラしているけれど、FCの配信やSNSではどちらかというと、いつもなにか思い悩んでいるし
寂しそうな感じ。

仕事柄、彼女もおらず、けっこういい歳になってしまっていることをまた悩んでるし
親の問題があったりして、辛そうなことが多い。

私自身はもう結婚してこどももいるし、そもそも彼の恋人になりたいとかはまず有り得ないし、釣り合わないし、相応しくないと思っているのだが

彼の友人にはなりたいと、とても思っている。
彼と最近読んだ面白い本の話とかしたいし、人間とはなんぞやみたいな話もしたいし、呑みにも行きたいし、寂しそうなら遊びに行くか!みたいなこともしたい。

彼と手を繋ぎたいとか、キスしたいとか、そういうのは別に要らなくて

彼という人間をもっと知りたいし、ここにこういう人間がいることを知って欲しいって思ってるし、めんどくさいからもう直接会って話したいと思っている。

でも、きっとFCのLINE的な機能でそういうことを書いたら、個人的な繋がりが欲しいみたいに見えて、規約違反とかになってしまったら困るな、と思って
まだそう書いたことは無い。


おかしいのかなぁ、こういう感覚って。

楽しいんだろうけどなぁ、彼と実際に会っていろんな話をしたら。

8/31/2024, 8:45:04 AM

なんで人生ってこんなに遠回りするんだろう

少なくとも自分は、初めからすっかり大好きだったものからわざわざ遠ざかって

わけのわからないものを心に詰め込んで、合わなくて傷付いて、ボロボロになる頃にまた最初から大好きだったものに出逢って
やっぱりこれしかない、と思い知ることを繰り返している気がする

何が、自分をこんな無駄な懊悩に誘うんだろうか

死ぬまでこんなことを繰り返すのは嫌だ

最初からずっと好きなものと、残りの人生はずっと傍にいたい

8/29/2024, 3:03:33 PM

#15 【言葉はいらない、ただ……】

好きだった。
大好きだった。

ふたりが初めてあの駅で、ちゃんと対面した時、雑踏の中からお互いを見つけた瞬間

まるでドラマみたいにふたりは早足で駆け寄って、身体をぴったりくっつけてただただ無言で抱き合ったね。


二人はやがて一緒に暮らし始めた。

ガランとした部屋に少しずつ家財を揃えていく、おままごとみたいな生活。

あの頃のあなたには、恋以外に人生やアイデンティティをかけるくらいに大切なものがあって
当時生まれて初めて本当の自由を手に入れた私も、恋以外にも夢中になれるものと出逢った。

もちろん二人は、好きあっていたから
だから少しくらい、生活がすれ違ってしまって
夜寝る頃にしか会えなくなって、朝出かける頃にはまだ眠っている顔しか見られなくなっても

それでもずっと、仲良しで、恋人同士でいられると思ってたの。

でも違ったよね。
あなたも私も、一緒の家に暮らしてるのにだんだん心が離れてしまって、だんだん寂しさが積もってしまって、本当に大切なものを見失って
お互いの間違いに気がついた時には、もうどうにも後戻り出来なくなってた。

互いの罪を告白した夜
こんなに大好きなのに、どうして別れなければいけないんだろうって
あなたの背中の体温を感じながら、涙が止まらなかった。

別々の家に帰るようになっても、あなたに新しい恋が訪れても、いつもいつも雑踏にあなたを探していたし、いつもいつもあなたの幸せを願っていた。

今でも、私はあなたを大好きだよ。
もしもまたどこかで逢えるような奇跡があったら
もうなににも遠慮しないで、無言であなたに近寄っていって、同じ目線で同じ匂いのするあなたを抱き締めたい。
もう二度と離さないように。






※ふたりの恋が終わってから、彼は少しずつおかしくなっていって
数年後には周囲の人にものすごい迷惑をかけて、ふっつりと消息が途絶えてしまった。
身体の弱い人だったし、健康を気にかけるようなタイプじゃなかったから、多分もう、生きては逢えないんだろうなって思っている。

今も、時々夢に出てきてくれるけど
あの頃のまま、同じ目線のまま、同じ体臭のままなんだよ。

あなたはきっと、私ほどはわたしのことを想っていないだろうけれど。

大好きだった。

本当に大好きだった。

8/18/2024, 11:47:18 PM

#14 【鏡】


寄るべない気持ちで
鏡の中を見る

口角の下がった、目に力のない四十女がこちらを見ている

少し角度を変えて
目の奥を覗き込む


ふっと緩めて

大丈夫
そんなに心配しなくてもいいよ

これまでだって、なんとかなってきたんだから

大丈夫

大丈夫



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