雨の日の午後、空港で待ち合わせた。
しばしのお別れをするために。
悪天候ではあるが、今日は予定通りフライトするらさい。
私は延期すればよかったのに、と内心思っていたのに。
「じゃあ、そろそろ行くね」
それを知ってか知らずか、彼は搭乗するために荷物を手に取って歩き始めた。
「うん、それじゃまたいつか」
私は離れたくない思いを抑え込みながら、いつも通りに接した。
飛行機が空を一直線に進んでいく。
きっとこの雨も届かない上空へと旅立っていくのだろう。
私は傘を手に取り、空港をあとにした。
秋の夜長に狐がとおる。
最近月を見上げることは減ったけど、秋口の満月の日はなんとなく庭先の網戸を開けたくなる。
雲ひとつない夜空に、立派な満月がぷかりと浮かんでいると心なしか幻想的な気分になる。
酒と少々のつまみを持って縁側に腰掛ける。
ふとがさり、と庭藪から音がする。
おそらくは出てこないであろうが、腹を空かせて狐でもやってきたのだろうか。
私はつまみの肉を少し取り出し、茂みへと投げる。
穏やかな秋
月夜が導いた出会いに、思わず空を仰ぐ。
揺れる電車の窓から見える故郷の景色が
いつか懐かしいと思える日が来るのかな
形のないもので身近なものというと、言葉が思い浮かぶ。
どうしてもモノにはできないその音の、微細なニュアンスや声色の違いからも変容するそれは人の心を巧みに操り、救いにもなったり時には言葉のナイフとして突き刺さる。
その形のないもので、人の心は動かせる。
だから、私は小説を書くのが好きなのだと思う。
久しぶりに母校へと訪ねた時、砂場のところにジャングルジムが無くなっていたのに気づいた。
なんでも、場所の維持費と危険度が釣り合わないからやめたのだと。
そう考えると理にかなっているが、私としては少し寂しい気分になった。
頂上まで登り切った時の景色と、誰にも邪魔されないような無敵感。
あの景色が、今の子供達が見れないと思うと少し勿体無い気分になった。