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6/8/2023, 2:08:29 AM

不思議な空の色だった。
紺色の空にピンクや黄色などのオーロラが浮かび、月が割れて、星々がこの世界の終わりを見届ける。
まるで宇宙そのものの様な、見たことのない景色。テレビに映っていた誰かは「悪魔の瞳」だなんてことを言っていたけれど、それが本当なら悪魔はどれほど綺麗なのだろう。
涼しい風が髪を揺らす。隣の君は、ボーッと口を半開きにしてただ空を眺めていた。
視線の先には大きな太陽がゆっくりと、わかる速さで昇っていく。
テレビでは「太陽が完全に昇った瞬間に世界は終わる」と言っていた。もうその時なのだろう。
世界が終わるまで後数秒という時に、君は言った。
「……さっきから考えてたんだけど」
「…何?」
「この空の色、お菓子売り場で売ってたお菓子に似てない?」
「全部台無しだよ」
突っ込んだ瞬間、目の前が白い光に包まれた。
こんな間の抜けた言葉が人生の最後だなんて、何て馬鹿らしいのだろう。
ただ、それにホッとしたのも事実。
あぁ、最期まで君は君のままだった。

6/6/2023, 12:51:02 PM

今日は最高の日ね、と友人がにこやかに言った。
「起きたら強盗に会って、会社に行ったら倒産していて、オマケにさっき確認したら財布を無くしていたわ!」
「それ、他人からしたら最悪の日なのよ」
「初めて強盗に出会ったわ!これって貴重な体験よね。それに、起業しようと思っていたからタイミングも良かったし、貯金も後五年は暮らせるお金が残ってるわ。財布には152円しか残ってなかったし、カード類は別にあるもの」
「色々突っ込みたい所は多々あるのだけれど…。強盗はどうしたの?」
「たかが包丁を持った一般人ごとき、私の敵じゃないわ」
「強すぎる」
というかさっき財布無くしたって言ってたわよねコイツ。もしかして今日私の全おごり?嘘でしょ?この量を?机から溢れそうな皿の量なんだけど。
「ふふっ。今日は良い日ね。全く最高の一日!」
「私にとっては最悪の日よ…」

6/5/2023, 10:43:20 AM

俺は人の心が読める。俺の先祖に覚りという妖怪がいて、俺はその影響を強く受けているからだ。所謂先祖返りというやつ。勿論、この力は親族以外は知らない。
話は変わるが、俺にはもう十年の付き合いになる幼馴染がいる。
しかし、ソイツは周りから遠巻きに見られるようなヤツだった。何故かって?ヤツが何処か出かける度に誰かが死ぬからだ。
そんな小さくなった名探偵じゃないんだからと思うだろう?ところがどっこい、本当なんだ。

だって、現在進行形で人が死んでるし。

周りから上がる悲鳴や怒声。その狂騒の中、幼馴染は酷く泣きそうな顔で此方を見た。
「ど、どうしよう…」
ヤツの瞳からぼろぼろと絶え間なく涙が零れ落ちる。
しかし、その涙は人が死んで怖いから流れているものではない。
『(どうしよう…っ!証拠残してきちゃったかも…)』
「(ま〜〜〜たコイツは!!!)」
ビンゴ。今回もまたコイツが殺したらしい。
そう、コイツの周りで殺人が起こるのは当たり前だ。だって当人が殺してるから。
けれど、この幼馴染は変に抜けている。何せ、毎回証拠を残すのだ。
『(使ったナイフに指紋残してきちゃった…!)』
あぁ。
「(何だ、それだけか。前回よりは楽に済みそうだ)」
まぁ、それはそれとして手袋はしろ。常識だろうが。いや、殺人の常識って知らんけど。
この幼馴染は変に抜けている。俺が証拠の隠滅をしなかったらとっくに塀の中だろう。
俺には誰にも言えない秘密がある。人の心が読めること、そして、幼馴染である殺人鬼の後始末をしていることである。

6/5/2023, 8:47:36 AM

昔から狭い部屋が怖かった。
別に、親に虐待されていたとかではないし、いじめられていたとかでもない。むしろ、家族仲は良い方だ。友人とも良き関係を築けている。
物心ついた頃からそうだった。小さな部屋に一人きりで閉じ込められていると、何故か焦りの気持ちが湧いてくる。早くここから出なければ、逃げ出さなければ、と。
そして、それは他人がそのような状況でも、この変な焦燥感が心の底から這い出てくるのだ。例えば、ペットショップ。犬や猫があんな小さなガラスケースに閉じ込められているのを見ると、「今すぐに助けなければ!」と思ってしまう。
「だからって…!」
現在、必死に自分の腰を掴んで行かせまいと頑張っている友人が叫んだ。
「サーカスのライオンの檻を壊そうとするのはやめろ!!!!!!」
だって体が勝手に!!