『鋭い眼差し』
彼は周りから所謂『強面』という認識。
ちょっと目つきが鋭くて怖いけど...。
でもホントは違う。
彼は本当はあぁ見えて優しいんだよ、皆んな?
みんな知ってた?
彼は実は吹奏楽部員でね。
前は私の隣でクラリネットやってたんだ。
すごく上手いんだよ。小さい頃からやってるんだって。
周りからキツく見られがちだけど、楽器吹いてる時の彼はすこし優しく見えるんだ。
クラリネットみたいな、あったかい感じ。
みんな知ってた?
彼が私に向けてくれた眼差しは全然痛くないんだよ。
やっぱり君は周りとは違う。
ちゃんと私のこと、分かろうとしてくれたね。
皆んなの眼差し、本当は痛かったんだ。
みんな知ってた?
実は彼、イタリアンなんだ。
だからほら、昼ごはんだってナポリタンだ‼︎
私、一口貰いたいけど、我慢するよ。
......最近の君、いつも寂しそうに食べるよね。
みんな知ってたでしょ?
実は彼、本当はあの時そこにはいなかった。
みんな寄ってたかって彼を責めたよね。
みんな彼の目つき怖いって言うけど、みんなの方がよっぽど怖かったよ。
「なぁ、お前...」
あれ、どうしたの?もう私はそこに座ってないよ。
なんでそんな悲しいお顔しちゃうのさ。
ほら、泣かないで。
君の涙を拭ってあげたいけれど、出来ないんだよ。
もう私は一輪の『花』でしか君の目の前にいられない。
『高く高く』
馴染みのない湿気と温みが私の身体を包んでいた。
身動きは、とれない。周囲もよく、見えない。
目が覚めると訳のわからない閉鎖空間にいた。勘弁してくれ。
いや、目が覚めたと言っていいのかは分からない。もしかすると意識が戻ってきたと言った方が良い気もするが、この際そんな事はどうでもいい。
兎にも角にも、此処から脱出したいという気持ちに駆られていた。
身体を下に引っ張られる感覚がある。どうやら私は今、直立してこの意味不明な空間に幽閉されているようだった。
そうと分かったらば、より上方を目指すほか無いだろう。
幸い、私を閉じ込めるこの壁は思ったよりも柔い。上へ登れば、一生此処で孤独に過ごすなんてことはないだろう。
さて、ではどう上を目指すかだが...これといったジャストアイデアが思いつかない。
しかし何故だか、「もっと高く上へ行きたい」という気持ちだけが膨れ上がっていく。
あぁもう‼︎私にこの気持ちを晴らす最善策をだれか教えてくれないか‼︎
随分と時間が経ったようだ。
この空間に時間という概念が存在するのかどうかなど私には分からないが、私が思考していたその時が存在していたことは事実であるから、時は前進しているのだろう。
そして、なんだか体が以前よりも温かい状態にある気がする。
身体も大きくなった感じがする。
以前からの変化はあったが、それでもまだ私はもっと、もっともっと高くこの腕を伸ばそうとする。
私の思いは満たされない。
もっと、もっとだ、ここよりずっと、高いところへ...。
満たされない気持ちが、私の身体をより成長させる。
この時にはもう、どう出るかなんて考えていなかった。
ただ、使命とも言えるようなこの気持ちが、今の私の原動力なのだ。
手放してはいけない。手放したくない。もっと、もっと...‼︎
不意に、身体が軽くなった。
そして次に、私は明るさを手に入れた。
私はそこに芽生えた。
来るところまで、来たようだった。
私の心は晴れやかだった。使命はとっくに果たされた。
ある時、1人の少年が私の顔を太陽のような眼差しで見下ろした。
私を手折ると天に掲げ、そして小さく接吻した。