蒼ノ歌

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『高く高く』

馴染みのない湿気と温みが私の身体を包んでいた。
身動きは、とれない。周囲もよく、見えない。
目が覚めると訳のわからない閉鎖空間にいた。勘弁してくれ。
いや、目が覚めたと言っていいのかは分からない。もしかすると意識が戻ってきたと言った方が良い気もするが、この際そんな事はどうでもいい。
兎にも角にも、此処から脱出したいという気持ちに駆られていた。
身体を下に引っ張られる感覚がある。どうやら私は今、直立してこの意味不明な空間に幽閉されているようだった。
そうと分かったらば、より上方を目指すほか無いだろう。
幸い、私を閉じ込めるこの壁は思ったよりも柔い。上へ登れば、一生此処で孤独に過ごすなんてことはないだろう。

さて、ではどう上を目指すかだが...これといったジャストアイデアが思いつかない。
しかし何故だか、「もっと高く上へ行きたい」という気持ちだけが膨れ上がっていく。
あぁもう‼︎私にこの気持ちを晴らす最善策をだれか教えてくれないか‼︎

随分と時間が経ったようだ。
この空間に時間という概念が存在するのかどうかなど私には分からないが、私が思考していたその時が存在していたことは事実であるから、時は前進しているのだろう。
そして、なんだか体が以前よりも温かい状態にある気がする。
身体も大きくなった感じがする。
以前からの変化はあったが、それでもまだ私はもっと、もっともっと高くこの腕を伸ばそうとする。
私の思いは満たされない。

もっと、もっとだ、ここよりずっと、高いところへ...。

満たされない気持ちが、私の身体をより成長させる。
この時にはもう、どう出るかなんて考えていなかった。
ただ、使命とも言えるようなこの気持ちが、今の私の原動力なのだ。

手放してはいけない。手放したくない。もっと、もっと...‼︎

不意に、身体が軽くなった。
そして次に、私は明るさを手に入れた。

私はそこに芽生えた。
来るところまで、来たようだった。
私の心は晴れやかだった。使命はとっくに果たされた。

ある時、1人の少年が私の顔を太陽のような眼差しで見下ろした。
私を手折ると天に掲げ、そして小さく接吻した。

10/14/2023, 12:54:53 PM