声をかけられると、緊張する
会話はたぶん楽しいけれど、何を話したか覚えていない
近くにいると、そわそわして落ち着かない
でも、離れるとなんだか置いていかれたような気がして寂しい
遠くにいると、こっちに来ないかなって期待する
この感情につけるべき名前を、見つけたいような、認めたくないような
『答えは、まだ』
『ここではない、どこかへ』
そんな思いをずっと抱えて生きている
“どこか”がどこにあるのかすらわからない
そもそも存在していないかもしれない
それでも、ずっと探している
“ここ”に辿り着くために、今までの旅があったのだと
そう心の底から思える場所を、ずっとずっと探している
『センチメンタル・ジャーニー』
晴れた日なら毎日見ているお月さま
…見ている、はずだ
意識して見ていないから、記憶に残っていないだけで
毎夜毎夜そこにある
なんのかんのと特別な理由を付けないと、自分から見上げようとも思わなくなってしまったお月さま
やれひときわ大きな満月だ、やれ何百年ぶりの皆既月食だ、やれ生きてる間はこれっきりの見事なストロベリームーンだ…いや、正直に言おう
特別な理由があっても、見上げることがなくなってしまった
月を見る余裕も無いくらい、忙しない人生が始まってしまった
朝起きてから夜眠るまで、時には眠っている間さえも、常に何かに追いかけられている
――はやくはやく、いそげいそげ
なんだかよくわからないものに、ずっと急き立てられている
落ち着く暇もない、ゆっくりする時間が惜しい、休むくらいなら何かをしなくちゃ…ずっとずっと、追われている
だから、本当に気まぐれだったんだ
特に何か大きな意味があるわけでもなく、ほんとうに、思いつきで
なんとなく、ふと見上げた空を君と共有したくなった
手ブレは酷いし、構図もなにもあったもんじゃない、ひどくボケた月の写真
送ってから、自分は何をやっているんだろうって我に返った
『ごめん、今のナシ』
そう送ろうとメッセージ画面を開くと、君からの無言の写真
…まさか、自分が撮ったものよりも酷いものが送られてくるとは思わなかった
追加で送信されたメッセージには、お月さまと同じくらい明るい君の言葉
『こっちも見えてるよー🌙きれいだね✨️』
『どうしたの?』とか『なにかあった?』でもなく、同じように今見上げている空を送ってくれる
君はお月さまみたいな人だ
どんなに世界が目まぐるしく動いても、いつも通り、普段通りに笑顔で寄り添ってくれる
なにがあっても変わらずいてくれる君のそんなところに、急いでいた心がちょっとだけ落ち着く
『君と見上げる月…🌙』
これも空白
なんでもやり過ぎなくらいやりきれば、誰かしらが芸術だと思ってくれる…かもしれない
『空白』
布団の中で震えながら耐える
ひたすら耐える
自分じゃどうにもできないから、見つからないように小さくなって過ぎ去るのを待つ
やっと訪れた静けさと、ひんやりとした空気に包まれる
ようやく安心して眠れる
『台風が過ぎ去って』