AM.くらげ

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6/19/2023, 3:24:18 PM

雨が降ってきた。
先程まで確かに晴れていた訳では無いが、目的地までは持つだろうと思って傘なんぞ持っていなかった。まぁいい。
濡れたところでもう関係ないのだから。
空を仰げば雨水が目に入る。2階から目薬をさすのは苦難のはずだ。そんな、微妙な偶然がなんとなく面白い。しかし、目が痛いのは嫌だからと前を向いて歩き出す。
最初はぽつりとした雨粒も途中から雨足が強まる。
さぁさぁ。
ここからお立ち会い。
雨に濡れることなど気にもせず小さくでき始めた水溜まりを蹴飛ばしながら進んでいると、ふと雨が止む。
いや、止んだ訳ではなく、傘が差し出されたのだ。
「傘。なんで持っていかないの。」
そんなの要らないからに決まっている。
「心配したんだよ、ほら、帰ろうよ。」
1本しかない傘に人間が2人。手を引かれるがかえる気は無い。だって、こんなにも。
「認められない世界はあまりにも息苦しいじゃないか。」
ぽつりと言えば、苦く笑われた。
「仕方がないよ、どんなに足掻いたって変えられないものは変えられない。無駄なことよりも、今一緒は相合傘を楽しもうよ?」
「そうだね、今は。今だけは。」
帰ろう。
それはたかが家路。
短いけどもおなじみのデートコースに、傘がひとつよく似た男女が1組。
行き着く先は同じ場所、答えも同じ。ただ今だけ足踏みをしよう。近いうちに2人はきっと。

6/18/2023, 3:55:29 PM

ひゅうううう
風を切る音が耳元でうるさい。
視界に広がるのはどんよりとした曇り空で、どうしてこんな日に思い立ってしまったのだろうと、重たい心が更に重くなる。どうせなら、清々しいほどの青空だったら良かったのに。いや、むしろそんな日だったら思いとどまって空を見上げていたか。
自由落下する体はもう止めることは出来ず、思考も止まらない。
なんでこんなことになったのか。
そんなことはどうでもいいではないか、もう全てが終わるのだから。いやいや、これは所謂走馬灯に近いのだ。きっと二度とないのだから有難くゆっくりと考え事をするべきだろう。思い返すことが出来る出来事は、あの人がいなくなってから全てが灰色で、思い出すことが苦痛で仕方がない。
これからそちらにいくよ、と、飛び降りたが落ちるまでがいやに長い。
逆にこれからの事を考える。これから、というのは適切ではないか。死んだら、きっとあの人に会える。あの人にあったら何を言おう。

会いたかった。
寂しかった。
辛かった。
もう離れたくない。
離さないで。
置いていかないで。

思いつく言葉が尽きない。
言いたい言葉をひたすら思い浮かべていると、頭がぼんやりとしてきた。さすがにそろそろ終わりの時間か?
飛び降り自殺をする時、一定の高さ以上から落ちる場合、呼吸困難により意識が喪失するのだとか。これが起きればもうすぐだ。
重たい瞼をゆっくりと閉じる。もう、眠ってもいいだろうか。次、目を覚ましたらあの人と会えますように。
そんなことを祈りながら、最後に地面を見ようかと体をねじってみる。


どしん。


目を覚ますと、いつものベット。
から、落ちていた。どうも、寝相が悪く落ちてしまったらしい。隣に居た彼はそんなこと意にも介さず気持ちよさそうに眠っている。

帰ってこれて良かった。