AM.くらげ

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雨が降ってきた。
先程まで確かに晴れていた訳では無いが、目的地までは持つだろうと思って傘なんぞ持っていなかった。まぁいい。
濡れたところでもう関係ないのだから。
空を仰げば雨水が目に入る。2階から目薬をさすのは苦難のはずだ。そんな、微妙な偶然がなんとなく面白い。しかし、目が痛いのは嫌だからと前を向いて歩き出す。
最初はぽつりとした雨粒も途中から雨足が強まる。
さぁさぁ。
ここからお立ち会い。
雨に濡れることなど気にもせず小さくでき始めた水溜まりを蹴飛ばしながら進んでいると、ふと雨が止む。
いや、止んだ訳ではなく、傘が差し出されたのだ。
「傘。なんで持っていかないの。」
そんなの要らないからに決まっている。
「心配したんだよ、ほら、帰ろうよ。」
1本しかない傘に人間が2人。手を引かれるがかえる気は無い。だって、こんなにも。
「認められない世界はあまりにも息苦しいじゃないか。」
ぽつりと言えば、苦く笑われた。
「仕方がないよ、どんなに足掻いたって変えられないものは変えられない。無駄なことよりも、今一緒は相合傘を楽しもうよ?」
「そうだね、今は。今だけは。」
帰ろう。
それはたかが家路。
短いけどもおなじみのデートコースに、傘がひとつよく似た男女が1組。
行き着く先は同じ場所、答えも同じ。ただ今だけ足踏みをしよう。近いうちに2人はきっと。

6/19/2023, 3:24:18 PM