AM.くらげ

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ひゅうううう
風を切る音が耳元でうるさい。
視界に広がるのはどんよりとした曇り空で、どうしてこんな日に思い立ってしまったのだろうと、重たい心が更に重くなる。どうせなら、清々しいほどの青空だったら良かったのに。いや、むしろそんな日だったら思いとどまって空を見上げていたか。
自由落下する体はもう止めることは出来ず、思考も止まらない。
なんでこんなことになったのか。
そんなことはどうでもいいではないか、もう全てが終わるのだから。いやいや、これは所謂走馬灯に近いのだ。きっと二度とないのだから有難くゆっくりと考え事をするべきだろう。思い返すことが出来る出来事は、あの人がいなくなってから全てが灰色で、思い出すことが苦痛で仕方がない。
これからそちらにいくよ、と、飛び降りたが落ちるまでがいやに長い。
逆にこれからの事を考える。これから、というのは適切ではないか。死んだら、きっとあの人に会える。あの人にあったら何を言おう。

会いたかった。
寂しかった。
辛かった。
もう離れたくない。
離さないで。
置いていかないで。

思いつく言葉が尽きない。
言いたい言葉をひたすら思い浮かべていると、頭がぼんやりとしてきた。さすがにそろそろ終わりの時間か?
飛び降り自殺をする時、一定の高さ以上から落ちる場合、呼吸困難により意識が喪失するのだとか。これが起きればもうすぐだ。
重たい瞼をゆっくりと閉じる。もう、眠ってもいいだろうか。次、目を覚ましたらあの人と会えますように。
そんなことを祈りながら、最後に地面を見ようかと体をねじってみる。


どしん。


目を覚ますと、いつものベット。
から、落ちていた。どうも、寝相が悪く落ちてしまったらしい。隣に居た彼はそんなこと意にも介さず気持ちよさそうに眠っている。

帰ってこれて良かった。

6/18/2023, 3:55:29 PM