・2『空模様』
次に婚約者の女に湿地に連れて行かれた。
幅の狭い木道を歩く。
湿地帯から沼地になったのか、わからない。
沼が見えてくる。
空模様がどんどんと怪しくなる。
雷が光る。
【続く】
・1『鏡』
私は誰なんでしょう。
真実を映す鏡の前に立ちました。
婚約者の女に引きずられて大きな姿見の前に女と立ちました。
鏡の前に立つとその者の本性が見えるそうです。
そこにはいつも通りの私が映るだけです。
【続く】
・6『いつまでも捨てられないもの』
この先このまま平穏に過ごせたらいいと思っていること
結婚したいとか子供が欲しいとか
成し遂げたいことがあるとか
そんなものはなくて
ただ死ねず
世を捨てて生きたい、という思いだけは捨てられず
色んな想いが一瞬にして駆け巡ったが
そのどれも口の端から漏れることなく
「ありがとうございます……いや、ほんとつまんない男です」
とだけ答えた。
ピアノマンの名前をまだ聞いてない
まあいいか
「今度メシでもいきません?」
「飲みましょ」
【終わり】
・5『誇らしさ』
「初めてピアノを弾いてるのを見た時、オッサンかと思いました」
「こっちに越してきたばっかりの時かな、頭もヒゲもなんもしてなかったっす」
彼は俺より全然若かった。こっちが地元で一度は上京したけど馴染めず戻ってきたこと、今は子供にピアノを教えていることなどを話してくれた。
でお兄さんは?何してる人ですか
「俺は全然……普通のリーマンでつまらない男ですよ」
と答えた。
彼は「つまんなくなんかないですよ」と言いこちらをハッキリと見た。暗くて表情はよく見えない。が、なぜか
あなたは自分を誇っていいんだ、とでも言っているような気がした。
【続く】
・4『夜の海』
時々は海を眺めに来る。自宅から20分ほど歩けば海岸だからだ。特に理由はない。たいていは夜だ。
自販機で飲み物を買おうとすると先客がいた。
自販機の明かりに照らされていたのはあのピアノ弾きの彼だ。
向こうから先に気がつき「あ!?どうもコンバンワ!」
と声をかけられた。咄嗟に「お、おゎ〜」気の抜けた返事をしてしまい「こんばんはー」と言い直した。
「おにーさん、よく来るんですかココ」
「そっすねー」
「夜の海もいいっすよねー」
俺はこのピアノマンの事を知らない。今なら少し聞いてもいいんだろうか?
【続く】