・3『上手くいかなくたっていい』
ミワは思った。
金持ちの考える事は違うな、と。
ジュリアは一応友達だ。生活レベルが違いすぎて彼女のナチュラルに発せられた言葉に傷つくこともあったが鼻にかけるでもなく、明るい性格は好感が持てた。
ただ、アイドルや女優になれる資質があるかというと
正直疑問だ。容姿は至って普通なのだ。ただ見た目にお金をかけているなあ、とは思う。
勘違いさせてしまった周りのせいも多いにある。
自分を客観的に見ることは難しい。自戒をこめて。
オーディションに誘われた時は驚いた。父親の口利きで優勝がほぼ決まってるなんて。
でも八百長オーディションに参加するなんて惨めな気がする……でも謝礼は魅力的。
インスタの案件だと思うことにして結局は受けることにした。
ジュリアには
「ウォーキングとかあるけど上手くいかなくたっていいの!堂々と歩いてればミワはカッコいいから!」
と言われた。
【続く】
・2『蝶よ花よ』
ジュリアは思う。
所謂お嬢様なのだろうと自分でもわかってる。
国会議員の父はやりたいことはなんでもやらせてくれたし
母はとにかく「自慢の娘」と言って私を着飾らせるのが好きだ。
周りの大人も父の顔色が大事だからめちゃくちゃ可愛がる。
今度のオーディションだって八百長だ。
でもランウェイとボイトレ、ダンスレッスン、スピーチはコーチを付けてトレーニングを重ねた。
体重も絞って、見せ方もメイクも勉強した。
私はこの社会を変えたいと思う。
グランプリから芸能界への進出はその足がかり。
私に敵う素人はいない、確信してる。
【続く】
・1『最初から決まってた』
新人発掘オーディションに参加してほしいと言われた。
「ミスコンに参加してもらう感じ。気楽にやってもらえれば!謝礼出るから!」
大学でサークルの先輩にそう誘われた私はとりあえず話を聞くことにした。
なんでもそのオーディションでグランプリを獲るコは最初から決まっているらしいのだが参加人数をもっと増やして箔を付けたいらしい。
先輩に来た案件のおこぼれ。
先輩と一緒なら謝礼も出るならいいかな、と思って引き受けることにした。
【続く】
・5『太陽』
ねえさんを外に連れ出して散歩する。
私はねえさんから寿命を少しずつ頂戴し、若返る。
ねえさんは歳を取り、
以前よりずっと私のねえさんらしくなった。
私は以前のねえさんのような少女の姿になっていく。
体力と知性がある。
「あなた、大丈夫なの?」
まだ、彼女は完全にボケてはいない。
ええ、何が?
「だって吸血鬼は太陽が苦手ってきまってるでしょ」
ええ、ええ、そうですね。
でも私は吸血鬼じゃありませんよ?
「そうなの?ならお散歩できるわねえ」
【終わり】
・4『鐘の音』
朝の鐘の音。
始業の時間だ。
ねえさんはまだ寝ている。
血を抜いて調べる。
変化なし。
この壊れたお人形のような女の子から
ほんの少しだけ生命力と知識と記憶を頂く。
もうかれこれ500年は生きているのだ
そろそろ解放してもいいだろう。
私はねえさんから2年分ほどの生命力を貰った。
肌や髪に少しだけ潤いが戻る気がした。
【続く】