・1『病室』
自分の病室がわからない。
お手洗いに行った。
出たら右?左?
◯◯さん
◯◯さん!
私のことですか?
こっちですよ
私、一人でお手洗いに行ったのよ。
ええ、ええ。それは、もう。
私の病室はどこかしら。
ええ、ええ。それは、もう。こっちですよ。
すぐなんですよ。
【続く】
・6『明日、もし晴れたら』
犬をぎゅっとしたまましばらく泣いた。
このこは迷い犬なんだろうか。
「交番に行く?」
答えない
「僕とおばあちゃんちに帰る?」
そうだそうだと言わんばかりに吠える
雨が弱くなってきたので一緒に帰ることにした
でも連れてって大丈夫かな
帰るとおばあちゃんが心配そうに迎えてくれた。
犬を連れ帰ったことは怒られなかったけど
明日動物病院に連れていこうと言われた。
首輪もしてないし、ビョーキとか心配だと。
変な女の人につれさられそうになったことは黙ってた。
もし、僕の予感が正しくて
おばあちゃんに質問して
答え合わせをして、
合ってたら……
タオルにくるんだ犬を拭きながら
心の中とは全然違う言葉を口にした
子供らしい言葉を
「明日晴れたら一緒に散歩しようね」
【終わり】
・5『だから、一人でいたい』
何犬かわからない。
でもかわいい。
毛足が濡れている
僕と並走する。
ひとまず雨に濡れないところに。コンビニはだめ
マンションの屋根付きの駐輪場に入った。
「君だれ」と犬に声をかけながらしゃがむと
肩口に顎を乗せて前足をかけてくっつく。
人懐っこいね
変な女の人から解放されて良かった。
誰にも見つかりたくなかった。
急に恐ろしくなってきて
僕は泣いた。
誰かに見つかったらこの犬とはお別れになるんだろうな。
そんな気がした。
【続く】
・4『澄んだ瞳』
雨が降る中「帰りたい!」と叫んだ
女の人は困った顔をして
何か言い訳のような事を言っていた。
濡れるから
家は近いから
あぶないし
それなら送っていくから
「知らない人だから嫌だっ」
僕は走ってそこから逃げた。
家に向かったら家がバレるだろうか?
追ってくるだろうか?
すると向こうから犬が走ってきた
僕と目が合う
見つけた!みたいな表情だった
とってもキレイな瞳だった
【続く】
・3『嵐が来ようとも』
女の人に手を引かれ屋台の並ぶ通りを歩かされた。
抵抗したが周りも気にしていないし、見ていない。
助けてもらえそうになかった。
泣きそうになった。こわい、帰りたい。
急に女の人は立ち止まって
「はい」
と屋台の焼きそばのパックを渡してきた。
棒の抜かれたボロボロのフランクフルトも乗っていた。
ベンチに座ってとにかく食べた。泣きたかったけど
食べたら解放されると思った。
天気が急に変わって雷が、光った
そのうちに雨がポッポツと大きな雨粒になってきた。
「うちが近いから行こ」と
また引っ張られそうになった。
今嵐が来ても女の人の家に行きたくなかった
【続く】