・1『やりたいこと』
もうすこしで海底にある私の住処に戻れる
キルケーはすこし興奮したまま戻る途中だった。
明日海上で何が起きるのか、ある程度は予想できる。
あの男は私を訪ねてくるに違いない。
彼をこの海の王にしたい
そのためにすこしの犠牲を払うだけ。
落ち着くの。
もっと薬を作らなくては
毒薬も媚薬も治療薬も
住処も整えなくては
飾り付けなくては
宝玉で。
【続く】
・10『朝日のぬくもり』
カヨは自宅アパートに寄り道をせず真っ直ぐ帰り(元義両親に報告する義理はない)朝干した布団と薄手の掛け布団を取り込んだ。
夕方になる前に帰ってこれてよかった。
なんとはなしに取り込んだばかりの布団に頭を沈めて掛け布団を頭から被ってうずくまった。
日の光をたっぷり浴びたであろうそれは自分の味方をしてくれるような気持ちにさせてくれた。温かく良い匂いがした。
ふと昨日職場で見た白無垢を思い出したが
全く何の感情も湧いてこなかった。
私には縁もなく、また必要のないものだと
心の底から思った。
【了】
・9『岐路』
チカノブは叫んでから自分が高揚していることに気付いた。
今が青春で試練の時なんだと。還暦を過ぎてからこんな情熱を起こさせてくれた彼に感謝し、ますます想いは募る。
さてこの家を売ろうか、それとも自宅介護にこの家を改装するか、彼のご両親をどう説得するか、彼を私の下に置くためにはそれなりの誠意をみせなければ。
あの女からすこしでも金を取れればと思ったが。
チカノブは今、人生の大きな転換期にいると思った
【続く】
・8『世界の終わりに君と』
カヨは
「貴方の言いたいことはよくわかりました」
そう言って男の目の前ででっちあげの内容証明証と手紙を破り捨てた
「私は不倫などしておりませんし、元夫も納得して離婚しています。今は他人です。貴方にどんな想いがあろうと知りません、好きにしてください。彼の名を騙って慰謝料を請求されても身に覚えがありませんので払いません。彼に尽くしたいのならどうぞご自由に!!!私を責めている暇があったらあのひとの側についていればいいでしょう!!」
いつの間にか泣きながら唇噛んでいた
そうして男に背を向けて立ち去った
チカノブという男が叫ぶ
「彼が病気でも!世界が明日終わろうとも!そうします!!ずっと側にいます!!」
頭上に降ってくる言葉が気持ち悪かったカヨは
「うるせえジジイ!!」
と叫んだ
【続く】
・7『最悪』
カヨはただただ玄関先で叱責を受けるだけだった
長年、元夫が幼い頃から見守っていただの
恋心を抱いていた、向こうもそうだった
結ばれなかったのはお前がいたからだ、それは世間体だ
なぜ病気の彼を放っておけるのか等、
暴言は暴走となりカヨは
じじい暇なんだなとぼんやり思った
【続く】