山百合

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5/31/2024, 2:55:26 PM

・1『無垢』

白無垢を眺めながら

私は生涯着ることがないだろうと思った

無垢な時は一瞬で遥か過去に思える

別れた夫からは今更慰謝料を請求されている

【続く】

5/30/2024, 2:14:45 PM

・9

掴んだと思った自分の手はまるで老木のようだった

青い実は赤く色づいてゆく

「『終わりなき旅』へゆきましょう」

私は2078年までどんな人間も取り込むことなく

人間のデータを集め続けた

100年先の疫病を封じるためだけに

赤い実には全ての情報が詰まっているはずだ

【了】

5/29/2024, 11:25:13 AM

・7・8

なにか木に話かけられた気がする

古い町並と濁流し氾濫寸前の川に気を取られて

何を言っているのかはよくわからなかった

私を飲み込んだ木から服を脱ぐように這い出ると

自分のスーツの左腕の袖がなかった

『半袖』だ

左腕の感覚がおかしい


『ごめんね』

今度ははっきり聞こえた

右手で近くの青い実をもぎ取ろうとした

私はなぜそんなことを?
木はなぜ謝るのだろう?

【続く】

5/27/2024, 1:31:13 PM

・6

『天国と地獄』

養分となって赤い実をつけるか

私の一部となって生き続けるか

私は男に問うことにした

未来から来たこの男に

【続く】

5/26/2024, 2:06:22 PM

・5

『月に願いを』

私がまだ若葉を付けていた頃

人々は戦地に赴いていた

皆が飢えていた

私の根本にはいくつもの死が重なっていた

私の青い実は徐々に赤く熟れてゆく

月を見上げこれ以上、人々の死を養分にしなくてすむように祈った

【続く】

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