『静寂に包まれた部屋』
しんと静まり返った部屋。
暗いこの部屋を照すのは窓から差し込む
満月の光だけ。
目を閉じる
真っ暗になる。
世界から、
私だけ、はぐれてしまったかのように…
暗闇に解けてしまう
そのまま消えてしまう
そんな錯覚を覚える。
唯一、
耳に届くのは私の呼吸音。
ただ、それだけだ。
ただ、それだけなのに…
これ程、生きていると自覚できる時はない。
私は、私の音しか聞こえない
しんと静まり返ったこの時間が、
一番安心できる。
私は、生きているんだ。今日も、この1秒を…
「別れ際に」
僕と彼女は幼馴染み。
彼女は朝から虹がみれたとルンルンだった。
少し子供っぽいけどこの無邪気な笑顔がとても可愛らしい。
僕は、そんな彼女にずっと、片想いをしている。
釣り合わないだろうけど、幼馴染みということもあって周りの友達よりもずっと身近で、いつも一緒だ。
「そうそう、今日は僕も部活が休みだし一緒に帰れそうだけど、どーする?」
彼女からの返事はYES
そんなのわざわざ聞かなくても、彼女はそのつもりだったらしい。
ちょっと嬉しい。
小学校の頃から登下校は用事がない限り一緒。
だから、当然といえば当然か…。
そしてやっと下校時間。
この時間が一番幸せ。
だって彼女と二人きりなんだから。
他愛もない会話をして、コロコロと変わる彼女の表情をみて、ひまわりのような笑顔をみていると僕もつられて笑顔になる。
でも、楽しい時間ほどあっという間にすぎてしまう。
名残惜しいけど、もうすぐ分かれ道。
彼女との幸せな時間は明日へおあずけ。
「じゃ、また明日ね~!!」
笑顔で振り返り手を振る彼女。名残惜しいなんて感じているのは僕だけみたいに彼女は家の方へ歩いていく。
ちょっともやっとした。
僕は、自分でも意識すること無く
『大好きだよ』
っと思わず口から言葉がこぼれ落ちた。
はっとしてすぐに彼女の方をみたけど、距離があってどうやら聞こえてないみたい。
良かったと思う反面聞こえていればと思う僕がいることにもちょっとビックリ。
彼女への恋心に自覚してから、ちょっとしたことで意識して、あわあわしている。彼女の言動に一喜一憂している。
落ち着かなきゃと思うけど、
そんな片想いを楽しんでいる僕がいるのもまた事実。
彼女に振り向いてもらえるように、いや、彼女のあの笑顔を守れるように。
僕はずっと、側にいたいと思ってしまった。
通り雨
朝から憂鬱な日だった。
寝坊したわけでもないし、朝から怒られたりしたわけでもない。
何となく、起きたときから体が重くて、何となく、気持ちが沈んでいた。
嫌なことがあったわけでもないのに、ただ、苦しいとだけ感じていた。
そんな日もあるだろうと、いつも通り過ごしていれば気持ちも晴れてくるだろうと、無理矢理、鏡の前で笑顔を作った。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!」
こうやって、笑顔を作って無理にでも明るくしていれば遅れて気持ちも着いてくるだろう。
私のジンクス、思い込みだ。
気休めかもしれないが、しないよりはましだろう。
そんなこんなで、もう登校時間だ。行きたくないが仕方がない。
「いってきまぁーす!」
うんうんバッチリいつも通りに振る舞えた。お母さんも気づいてないし完璧。私って演技上手だったりして。
まぁ、そんなことどうでもよくて。
学校に着くまでには、少しはましになってると良いな
と他人事のように考えながら通学路を歩いていたとき、
通り雨に遭った。
本当についていない。
これじゃ気持ちが晴れるなんて無理だ。
さっきまであんなに天気は良かったのに…
傘なんて持ってきてないし。最悪。
でも、この信号を渡れば学校はすぐだし、行きたくないけど、濡れるのはもっと嫌。
と、気持ちが沈みきったまま、学校に行くため、そして、これ以上雨で濡れないために、赤の信号に、速く青になれと、念を送りながらみていた。
そのとき、ふと、信号の向こうの空に、薄く水彩絵具で描いたような虹がかかっていることに気がついた。
淡くぼんやりとしているが、確かに虹だった。
意識することなく、自然と顔がほころんだ。
自分でも少し驚いた。
さっきまであんなに沈んでいた気持ちが、今ではすっかり晴れてしまった。
変なの。
空は雨が降っていても私の気持ちはスッキリ青空。
それも、よく目を凝らさないと見えないくらいの淡い虹のせいなんて。
こんなに不格好な虹なのに。今の私にはとってもきれいな虹に見える。
優しく背中を押してくれているみたい。
あぁ、今日も頑張ろう。
こんな簡単に気持ちが変わってしまうなんて。
本当に変なの。
でも、それが楽しいんだもんね。
自分でも単純って思うけどそれで良い。
この虹を綺麗って思えるのなら、私は単純で構わない。
赤だった信号も青に変わった。
さあ、虹に応援してもらった分、今日も頑張ろう!
私は心からの笑顔でそう、思えた。
今日は朝からラッキーな日だ。