柊ひめ子

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          通り雨

朝から憂鬱な日だった。
寝坊したわけでもないし、朝から怒られたりしたわけでもない。

何となく、起きたときから体が重くて、何となく、気持ちが沈んでいた。
嫌なことがあったわけでもないのに、ただ、苦しいとだけ感じていた。

そんな日もあるだろうと、いつも通り過ごしていれば気持ちも晴れてくるだろうと、無理矢理、鏡の前で笑顔を作った。

「だいじょーぶ、だいじょーぶ!」
こうやって、笑顔を作って無理にでも明るくしていれば遅れて気持ちも着いてくるだろう。

私のジンクス、思い込みだ。

気休めかもしれないが、しないよりはましだろう。
そんなこんなで、もう登校時間だ。行きたくないが仕方がない。

「いってきまぁーす!」
うんうんバッチリいつも通りに振る舞えた。お母さんも気づいてないし完璧。私って演技上手だったりして。

まぁ、そんなことどうでもよくて。
学校に着くまでには、少しはましになってると良いな
と他人事のように考えながら通学路を歩いていたとき、
通り雨に遭った。

本当についていない。
これじゃ気持ちが晴れるなんて無理だ。
さっきまであんなに天気は良かったのに…
傘なんて持ってきてないし。最悪。

でも、この信号を渡れば学校はすぐだし、行きたくないけど、濡れるのはもっと嫌。
と、気持ちが沈みきったまま、学校に行くため、そして、これ以上雨で濡れないために、赤の信号に、速く青になれと、念を送りながらみていた。

そのとき、ふと、信号の向こうの空に、薄く水彩絵具で描いたような虹がかかっていることに気がついた。

淡くぼんやりとしているが、確かに虹だった。

意識することなく、自然と顔がほころんだ。
自分でも少し驚いた。

さっきまであんなに沈んでいた気持ちが、今ではすっかり晴れてしまった。

変なの。

空は雨が降っていても私の気持ちはスッキリ青空。

それも、よく目を凝らさないと見えないくらいの淡い虹のせいなんて。

こんなに不格好な虹なのに。今の私にはとってもきれいな虹に見える。

優しく背中を押してくれているみたい。

あぁ、今日も頑張ろう。

こんな簡単に気持ちが変わってしまうなんて。
本当に変なの。

でも、それが楽しいんだもんね。
自分でも単純って思うけどそれで良い。

この虹を綺麗って思えるのなら、私は単純で構わない。
赤だった信号も青に変わった。
さあ、虹に応援してもらった分、今日も頑張ろう!

私は心からの笑顔でそう、思えた。
今日は朝からラッキーな日だ。

9/27/2023, 12:51:32 PM