「金木犀か…」
晴れといえば曇り、曇りといえば明るい、そんな中途半端な空の下。
先生は感心したように「金木犀」と呼んだ花に手を添える。
「綺麗だなぁ」
朱色で星形のそれは、薄暗く湿った土を華やかに彩っていた。
「私としては、花よりも…柿でもなっていてくれた方が嬉しいですけどね。」
それを聞くなり先生は、「風情のないやつめ」と口を尖らせた。
「懐かしい…」
私は、腰を屈めて金木犀を一つつまみ取った。下から上からと花弁を覗き込む。
「…やっぱり、柿でもなってくれた方が、嬉しかったのに。」
立ち上がり、夕焼けに浮かぶ己の影をきつく睨みつける。
乾いた土を、朱色の花弁が彩った。
「キンモクセイ」
わかっていた。わかっていたはずだった。
貴方は私の横で、静かに寝息を立ててるはずなのに。起きたら、暖かい腕で私を包み込んでくれるはずなのに。
「おはよう」と、微笑んでくれるはずなのに。
今、私の横には、冷たくなった先生がいる。
わかっていたはずなのに。
私が涙で頬を濡らしても、先生はもう慰めてはくれない。涙を拭ってはくれない。
私を心配する声も、もう聞けない。
「先生…?」
行かないでと、願ったのに
LaLaLa GoodBye
さようなら。あの日が来るまで さようなら。
君が去るまでさようなら。君が来るまでさようなら。
ラララ ラララ さようなら。
呑気な鼻歌歌ってろ。呑気に空でも見上げてろ。
思い出すまでさようなら。
ラララ ラララ さようなら。
君を見るまでさようなら。
____この前、一人で家に帰ってたときね。遠くから、十歳くらいかな?悲鳴が聞こえてきたの。
びっくりしちゃって、急いで駆けつけたんだけど…。
周りに二人くらいの男の人がいてね、その子のこと縛り上げてたの。
たぶん、売ろうとしてたんだね。
顔も整ってたし、親もいないみたいだったから。
なんとか助けてあげたんだけど、どこかに走って行っちゃって。
…その子、そのあとすぐに自殺したらしくてね。
「ほんとさ、酷い話だよね。ね、知俊くん。」
蝉の鳴く、青い空の下。
紀久代さんは、頬杖をついて僕を見た。
その冷たい、突き放すような表情に、酷く息を詰まらせたことを、よく覚えている。
快晴の追憶
私ね、花を渡すときは一輪が一番素敵だと思うの。だって、なんか特別な感じがしない?
もちろん花束もいいんだけどね。色はなんでもいいよ。
もらえるだけでも嬉しいしね。
……いつかもらえたらいいんだけどなぁ。
「大丈夫。もう大丈夫だよ。」
一輪のコスモス